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計量の入った線形空間

2023-05-07

ベクトルの長さや2つのベクトルのなす角という概念を扱うための道具は内積と呼ばれています。

内積は2つのベクトルから1つのスカラーをつくる操作(演算)です。

ここでは、まず、以前学習した数ベクトル空間の内積をおさらいしてから、一般の線形空間に対する内積の定義およびその性質を説明することにします。

数ベクトル空間の内積

実数上の数ベクトルの空間 \(\mathbb{R}^n\) では、2つのベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right),\boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\ y_n\end{array}\right)\) から、たとえば次のような1つの数を作ります。

\[ x_1y_1+x_2y_2 + \cdots + x_ny_n \]

そして、この数をたとえば \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) という記号であらわします。つまり、2つのベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right),\boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\ y_n\end{array}\right)\) に対して、\(\boldsymbol{x}\)\(\boldsymbol{y}\) の内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = x_1y_1+x_2y_2 + \cdots + x_ny_n\]

として定義するわけです。

また、複素数上の数ベクトルの空間 \(\mathbb{C}^n\) では、ベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right),\boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\ y_n\end{array}\right)\) に対して内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) を、たとえば

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = x_1\overline{y_1}+x_2\overline{y_2} + \cdots + x_n\overline{y_n}\]

として定義することができます。

ここで説明した \(\mathbb{R}^n\)\(\mathbb{C}^n\) の内積は、数ベクトル空間の自然内積とよばれています。

そして、このように定義された内積では、数ベクトルの成分がすべて実数の場合には、普通の数の世界で成り立つ「交換法則」や「分配法則」に似た法則が成り立ち、成分が複素数の場合には共役の印 \(\bar{\qquad}\)(バー)のついた法則が成り立つのでした。

補足:幾何ベクトルや数ベクトルの内積の説明では内積を \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) ではなく、掛け算を想起させる \(\cdot\) を使い \(\boldsymbol{x}\cdot\boldsymbol{y}\) という記号であらわしていました。この記号を使って内積の性質を書いてみると、「交換法則」や「分配法則」に似た法則が成り立っていたわけです。 一方、\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) という記号を使って内積を書くことにするとこれらの性質は、「エルミート性(共役付きの対称性)」や「共役双線形性」という言葉を使うとより気分が出るということが見えてきます。

これらのことを頭に入れた上で、次の節で、(数ベクトル空間には限らず)一般的な線形空間における内積を定義することにします。

計量線形空間

ここでは \(\mathbb{K}\) という記号で実数の集合 \(\mathbb{R}\) または 複素数の集合 \(\mathbb{C}\) のどちらか1つをあらわすことにします。 以下の説明で \(\mathbb{K}=\mathbb{R}\) の場合は \(\bar{\qquad}\)(バー)を無視することができることをはじめに注意しておきます。

線形空間の内積

定義

\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の線形空間とし、\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\)\(V\) のベクトルとします。そしていま、\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) から \(\mathbb{K}\) に属している1つの数をつくる操作があり、この数を \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) という記号であらわすことにします。

\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) が以下の法則を満たすとき、\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)\(\boldsymbol{x}\)\(\boldsymbol{y}\)内積といいます。

  1. \((\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{y})=(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{y})+(\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{y})\)
    \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_1+\boldsymbol{y}_2)=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y_1})+(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_2)\)
  2. \((\alpha\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=\alpha(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)
    \((\boldsymbol{x},\alpha\boldsymbol{y})=\overline{\alpha}(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)
  3. \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=\overline{(\boldsymbol{y},\boldsymbol{x})}\)
  4. \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{x})\) は必ず \(0\) 以上の実数で \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}) =0\) となるのは \(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) のときに限る。

補足

  1. は、内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) を作る操作はベクトルの和を作ることに関して、 \(\boldsymbol{x}\) または \(\boldsymbol{y}\) を固定して考えると残りの片方について和を保つということを意味しています。
  2. は、内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) を作る操作はベクトルをスカラー倍することに関して、 \(\boldsymbol{x}\) を固定して考えると \(\boldsymbol{y}\) については(スカラー倍を保つのではなく)共役複素数倍になり、\(\boldsymbol{y}\) を固定して考えると \(\boldsymbol{x}\) についてはスカラー倍を保つということを意味しています。
    そして 1. と 2. は内積の共役双線形性と呼ばれます。
  3. は、内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) を作る操作は \(\boldsymbol{x}\)\(\boldsymbol{y}\) をい入れ替えると共役複素数に変わるということを意味しています。
  4. は 内積の正値性と呼ばれます。

それでは、この定義を満たす操作の例を見てみることにしましょう。

数ベクトル空間 \(\mathbb{K}^n\) には、たとえば次のようにして、自然内積とは異なる内積を導入することができます。

\(d_1,d_2, \ldots ,d_n\) をすべて正の数(これらのうち等しいものがあっても良い)とし、まず次のような \(n\) 次の正方行列 \(D\) を作ります。

\[D = \left(\begin{array}{cccc}d_1 & 0 & \cdots & 0\\ 0 & d_2 & & 0\\ \vdots & & \ddots & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots &d_n\end{array}\right)\]

そして数ベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right),\boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\ y_n\end{array}\right)\) に対して \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) &={}^t \!\boldsymbol{x}D\overline{\boldsymbol{y}}\\ &=(x_1,x_2,\ldots,x_n) \left(\begin{array}{cccc}d_1 & 0 & \cdots & 0\\ 0 & d_2 & & 0\\ \vdots & & \ddots & \vdots\\ 0 & \cdots & \cdots &d_n\end{array}\right) \left(\begin{array}{c}\overline{y_1}\\ \overline{y_2}\\ \vdots\\\overline{ y_n}\end{array}\right) \end{align} \]

として定義します。右辺の行列の積を計算してみると、

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = d_1 x_1 \overline{y_1} + \cdots + d_n x_n \overline{y_n} \]

と定義したことになります。

このようにして定義された \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) が、内積の定義に現れる条件をすべて満たすことは簡単に確認できます。

詳しく言うと… \(d_1 x_1 \overline{y_1} + \cdots + d_n x_n \overline{y_n}\) という式にあらわれている各項 \(d_i x_i \overline{y_i}\) に注目してみましょう。

実数や複素数の世界における分配法則及び共役複素数に関する性質により

\[ \begin{align} & d_i(x_i + x^\prime_i)\overline{y_i}=d_i x_i \overline{y_i}+d_i x^\prime_i \overline{y_i}\\[6pt] & d_i x_i \overline{(y_i+y^\prime_i)}=d_i x_i \overline{y_i}+ d_i x_i \overline{y^\prime_i}\\[6pt] & d_i (\alpha x) \overline{y_i} = \alpha (d_i x \overline{y_i})\\[6pt] & d_i x (\overline{\alpha y_i}) = \overline{\alpha} (d_i x \overline{y_i})\\ \end{align} \]

が成り立つわけですから、これらをすべての \(i\) に関して足してできる \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = d_1 x_1 \overline{y_1} + \cdots + d_n x_n \overline{y_n}\) について、

\[ \begin{align} & (\boldsymbol{x}+\boldsymbol{x}^\prime,\boldsymbol{y}) = (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) + (\boldsymbol{x}^\prime,\boldsymbol{y})\\[6pt] & (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}+\boldsymbol{y}^\prime) = (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) + (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}^\prime)\\ & (\alpha\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) = \alpha(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})\\[6pt] & (\boldsymbol{x}, \alpha\boldsymbol{y}) = \overline{\alpha}(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) \end{align} \]

が成り立つことになります。

また、\(d_i\) が実数であることに注意すると、

\[ \begin{align} d_i x_i \overline{y_i} &= \overline{d_i \overline{x_i} y_i}\\[6pt] &=\overline{d_i y_i \overline{x_i}} \end{align} \]

が成り立つわけですから、

\[ (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})=\overline{(\boldsymbol{y}, \boldsymbol{x})} \]

が成り立つことになります。

またさらに、\(d_i\) が正の数であることに注意すると、

\[ \begin{align} & d_i x_i \overline{x_i} = d_i |{x_i}|^2 \geq 0\\[6pt] & d_i x_i \overline{x_i} = 0 \,\,\text{となるのは} \,\,x_i=0 \,\,\text{のときのみ} \end{align} \]

であるので

\[ \begin{align} & (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x}) \geq 0 \\[6pt] & (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x}) = 0 \,\,\text{となるのは} \,\,\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0} \,\,\text{のときのみ} \end{align} \]

が成り立つことになります。

以上で

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = d_1 x_1 \overline{y_1} + \cdots + d_n x_n \overline{y_n} \]

と定義したものが、内積の条件をすべて満たしていることがわかりました。

上では、\(x_1,\ldots, x_n\)\(y_1,\ldots,y_n\) のような成分で計算を考えてみることにより、この例で定義したものが内積となっていることを確認しました。

以下、今後のことも考えて、念の為、行列の積として定義された

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) ={}^t \!\boldsymbol{x}D\overline{\boldsymbol{y}} \]

で計算を考えることによりあらためて、これが内積の条件を満たすことを確認してみることにします。

行列の積では分配法則が成り立つことや行列の転置の性質を思い出してみれば、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x}_1 + \boldsymbol{x}_2, \boldsymbol{y}) &={}^t \!(\boldsymbol{x}_1 + \boldsymbol{x}_2) D\overline{\boldsymbol{y}}\\ &=({}^t \!\boldsymbol{x}_1 + {}^t \! \boldsymbol{x}_2) D\overline{\boldsymbol{y}}\\ &={}^t \!\boldsymbol{x}_1 D\overline{\boldsymbol{y}} + {}^t \! \boldsymbol{x}_2 D\overline{\boldsymbol{y}}\\ &= (\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{y}) + (\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{y}) \end{align} \]

となることがわかります。これで 1. の最初の式が成り立つことが確認できました。1. の二番目の式 \((\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}_1 + \boldsymbol{y}_2) = (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_1) + (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_2)\) が成り立つことも同じようにして確認できます。

また、行列のスカラー倍に関する性質を主出せば、

\[ \begin{align} (\alpha \boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) &= {}^t \! (\alpha\boldsymbol{x}) D \overline{\boldsymbol{y}}\\ &= \alpha {}^t \!\boldsymbol{x} D \overline{\boldsymbol{y}}\\ &= \alpha({}^t \! \boldsymbol{x} D \overline{\boldsymbol{y}})\\ &=\alpha(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) \end{align} \]

であることがわかり 2. の最初の式が成り立つことが確認できます。

またさらに、複素数の共役に関する性質も思い出せば、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x}, \alpha \boldsymbol{y}) &= {}^t \!\boldsymbol{x} D (\overline{\alpha\boldsymbol{y}})\\ &= {}^t \!\boldsymbol{x} D (\overline{\alpha}\, \overline{\boldsymbol{y}})\\ &=\overline{\alpha}\, {}^t \! \boldsymbol{x} D \overline{\boldsymbol{y}}\\ &= \overline{\alpha}({}^t \! \boldsymbol{x} D \overline{\boldsymbol{y}})\\ &=\overline{\alpha}(\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) \end{align} \]

となり、2. の二番目の式が成り立つことも確認できます。

\((\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})\) は数なので転置しても変わらないことや \(D\) は対称行列なので転置しても変わらないこと、\(D\) の成分はすべて実数なので複素共役をとっても変わらないことに注意すると、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) &= {}^t (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) \\[6pt] &={}^t({}^t \!\boldsymbol{x} D \overline{\boldsymbol{y}})\\[6pt] &= {}^t\!\overline{\boldsymbol{y}} \, {}^t\!D \,{}^t\!({}^t\! \boldsymbol{x})\\[6pt] &= {}^t\!\overline{\boldsymbol{y}} \, D \,\boldsymbol{x}\\[6pt] &= \overline{ {}^t\!\boldsymbol{y}\, \overline{D} \,\overline{\boldsymbol{x}} }\\[6pt] &= \overline{ {}^t\!\boldsymbol{y}\, D \, \overline{\boldsymbol{x}} }\\[6pt] &= \overline{(\boldsymbol{y}, \boldsymbol{x})} \end{align} \]

であることがわかり、3. が成り立つことが確認できます。

以上で再び、この例で定義したものが内積の条件を満たしていることが確認できました。
ここで定義された内積を数ベクトル空間の自然内積

\[ x_1 \overline{y_1} + \cdots + x_n \overline{y_n} \]

と比べてみると、各成分を対等に扱うのではなく第 \(i\) 成分に“重み” \(d_i\) を掛け扱いに差をつけていることがわかります。 また、\(d_i\) をすべて正の数にすることによって内積の条件である「正値性」を満たすようにしているわけです。

前の例をもう少し一般化したものを、実数上の2次元数ベクトル空間 \(\mathbb{R}^2\) で考えてみることにします。

2つの数ベクトル

\[ \boldsymbol{x} = \left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array}\right), \, \boldsymbol{y} = \left(\begin{array}{c} y_1\\ y_2 \end{array}\right) \]

に対して、実数 \(a,b,c,d\) を用意して、

\[ (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) = a x_1 y_1 + b x_1 y_2 + c x_ 2 y_1 + d x_2 y_2 \tag{1} \]

という形の式を考えてみます。これは、行列を用いると、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) &= (x_1, x_2) \left(\begin{array}{cc} a & c\\ b & d \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} y_1\\ y_2 \end{array}\right)\\ &= {}^t \! \boldsymbol{x} \left(\begin{array}{cc} a & c\\ b & d \end{array}\right) \boldsymbol{y} \end{align} \tag{2} \]

とあらわされます。(実数上の線形空間の話なのでバー \(\bar{}\) はあらわれません。)

\((1)\) 式や \((2)\) 式の形から、この \((\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})\) は、

\[ \begin{align} & (\boldsymbol{x}_1 + \boldsymbol{x}_2, \boldsymbol{y}) = (\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{y}) + (\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{y})\\[6pt] & (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}_1 + \boldsymbol{y}_2) = (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_1) + (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_2)\\[6pt] & (\alpha\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) = \alpha (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})\\[6pt] & (\boldsymbol{x}, \alpha\boldsymbol{y}) = \alpha (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) \end{align} \]

を満たすことはほぼ明らかです。また、

\[ (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) = (\boldsymbol{y}, \boldsymbol{x}) \]

を満たすためには、\(b=c\) であることが必要ということが \((1)\) 式や \((2)\) 式よりわかります。というわけで、以下、

\[ (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) = a x_1 y_1 + b x_1 y_2 + b x_ 2 y_1 + d x_2 y_2 \tag{3} \]

または、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) &= (x_1, x_2) \left(\begin{array}{cc} a & b\\ b & d \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} y_1\\ y_2 \end{array}\right)\\ &= {}^t \! \boldsymbol{x} \left(\begin{array}{cc} a & b\\ b & d \end{array}\right) \boldsymbol{y} \end{align} \tag{4} \]

という形をしているとして話を進めます。

\((\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x}) \geq 0\) がどんな \(\boldsymbol{x}\) に対しても成り立っているとしましょう。すると、\((3)\) 式より、

\[ a x_1 ^{\,2} + 2b x_1 x_2 + d x_2 ^{\,2} \geq 0 \tag{5} \]

がどんな \(x_1,x_2\) に対しても成り立つことになります。この式の左辺は \(x_1\) について平方完成をすると、

\[ \begin{align} a x_1 ^{\,2} + 2b x_1 x_2 + d x_2 ^{\,2} &= a \left\{\left(x_1 - \frac{b}{a}x_2\right)^2 - \frac{b^2}{a^2}x_2^{\,2} \right\} + d x_2^{\,2}\\[6pt] &= a \left(x_1 - \frac{b}{a}x_2\right)^2 + \frac{ad-b^2}{a}x_2^{\,2} \end{align} \]

と変形できます。ただしここでは \(a \neq 0\) の場合を考えています。

ということは、たとえば、 \(a \gt 0, \, ad-b^2 \gt 0\) であれば、\((5)\) 式がどんな \(x_1,x_2\) に対しても成り立つことになります。そしてさらにそのとき、

\[ a \left(x_1 - \frac{b}{a}x_2\right)^2 + \frac{ad-b^2}{a}x_2^{\,2} = 0 \]

となるのは \(x_1=0\) かつ \(x_2=0\) のときだけであることもわかります。

以上で、\(a \gt 0, \, ad-b^2 \gt 0\) を満たす実数 \(a,b,d\) を用意し、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y}) &= (x_1, x_2) \left(\begin{array}{cc} a & b\\ b & d \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} y_1\\ y_2 \end{array}\right)\\ &= {}^t \! \boldsymbol{x} \left(\begin{array}{cc} a & b\\ b & d \end{array}\right) \boldsymbol{y} \end{align} \]

と定義すると、\((\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})\)\(\mathbb{R}^2\) 上の内積となることがわかりました。

ここでは数ベクトル空間ではない線形空間に導入できる内積の例を見てみることにします。

\(\mathbb{K}\) は実数の集合 \(\mathbb{R}\) または複素数の集合 \(\mathbb{C}\) のどちらかをあらわすとします。

\(V\) を 閉区間 \([a, b]\) で定義されていて \(\mathbb {K}\) に値をとる連続な関数をすべて集めてできる線形空間とします。 (これは \(\mathbb{K}\) 上の無限次元線形空間になっています。)

\(V\) のベクトル(つまり閉区間 \([a, b]\) で定義されていて \(\mathbb {K}\) に値をとる連続な関数)\(f\)\(g\) に対して、定積分を用いて

\[ (f, g) = \int_a^b f(x)\overline{g(x)}dx \tag{6} \]

と定義してみます。微積分学で知られているように、連続関数の積は連続であること、閉区間上の連続関数は積分可能であることからこの定積分の値はちゃんと存在します。そして、\((f,g)\) は内積の条件を満たしていることがわかります。

実際、定積分の性質や共役複素数の性質を思い出せば、

\[ \begin{align} & \int_a^b (f_1(x) + f_2(x)) \overline{g(x)}dx = \int_a^b f_1(x)\overline{g(x)}dx + \int_a^b f_2(x)\overline{g(x)}dx \\[6pt] & \int_a^b f(x) (\overline{g_1(x)+g_2(x)})dx = \int_a^b f(x)\overline{g_1(x)}dx + \int_a^b f(x)\overline{g_2(x)}dx \\[6pt] & \int_a^b (\alpha f(x))\overline{g(x)}dx = \alpha \int_a^b f(x)\overline{g(x)}dx\\[6pt] & \int_a^b f(x)(\overline{\alpha g(x)})dx = \overline{\alpha} \int_a^b f(x)\overline{g(x)}dx\\[6pt] & \int_a^b f(x) \overline{g(x)} dx = \overline{\int_a^b g(x) \overline{f(x)} dx} \\[6pt] & \int_a^b |f(x)|^2 dx \geq 0 \,\, \text{かつ}\,\,\int_a^b |f(x)|^2 dx=0 \,\,\text{となるのは}\,\, f(x)\,\,\text{が任意の}\,\,x\,\,\text{に対して}\,\, 0\,\,\text{のときに限る} \end{align} \]

ということがわかります。これらは \((6)\) 式で定義される \((f,g)\) が内積の条件を満たしていることを意味しています。

このようにして定義される内積 \((f,g)\) を数ベクトル空間の自然内積と比べてみることにしましょう。

閉区間 \([a, b]\) 上の関数 \(f\) は、\([a,b]\) に属している実数 \(x\) に対する値 \(f(x)\) をすべての \(x\) に対して与えることにより決まります。一方数ベクトル \(\left(\begin{array}{c} x_1\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right)\) は各 \(i\in\{1,\ldots,n\}\) に対して値 \(x_i\) を与えることにより決まります。

積分は極限をとるという演算を通して計算される足し算であることをここで思い出してみましょう。すると、\((f,g)\) は各 \(x\) に対して定まっている値 \(f(x)\)\(\overline{g(x)}\) を掛けたもの \(f(x)\overline{g(x)}\) をすべての \(x\in [a,b]\) に渡って足したものです。一方、数ベクトル空間の自然内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) は 各 \(i\) に対して定まっている値 \(x_i\)\(\overline{y_i}\) を掛けたもの \(x_i\overline{y_i}\) をすべての \(i\in \{1,\ldots,n\}\) に渡って足したものです。

このように比べてみると、\((f,g)\) は、離散的な変数 \(i\in\{1,\ldots,n\}\) に対する値の和をとることにより決まる自然内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) を連続的な値をとる変数 \(x \in [a,b]\) に対して一般化して考えたものと思うことができます。

計量線形空間

定義

内積の定義されている線形空間を計量線形空間と呼びます。

先のいくつかの例で見たように、ある1つの線形空間にも内積を定義する方法がいくつもあります。 たとえ同じ線形空間でも、定義されている内積が異なれば計量線形空間としては別のものと考えなくてはなりません。

ベクトルの長さ

定義

内積の定義されている線形空間ではどんなベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対してもその内積について

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{x})\geq 0 \]

が成り立ちます。そして、\(0\) 以上の数には必ず実数の平方根が存在します。そこで、負でないほうの平方根を使って \(\boldsymbol{x}\)長さ\(\sqrt{(\boldsymbol{x},\boldsymbol{x})}\) で定義することにし 、\(\|\boldsymbol{x}\|\) という記号であらわすことにします。

補足:ベクトルの長さはノルムと呼ばれることもあります。

\(V\)\(\mathbb{R}\) 上2次元の線形空間とします。そして \(V\) における内積を、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right),\, \boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\end{array}\right)\) に対して

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=2x_1 y_1 - x_1 y_2 - x_2 y_1 + x_2 y_2 \]

と定義してみます。これが内積の条件を満たすことは容易に確認できます。また、これは、行列を用いて、

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = (x_1, y_1) \left( \begin{array}{cc} 2 & -1\\ -1 & 1 \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} y_1\\ y_2 \end{array} \right) \]

とあらわすこともできます。 このように定義された内積では、ベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\) の長さは

\[ \|\boldsymbol{x}\| = \sqrt{2x_1^{\,2} -2x_1 x_2 + x_2^{\,2}} \]

のように計算されます。たとえば、\(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}1\\0\end{array}\right)\) の長さは、

\[ \begin{align} \|\boldsymbol{x}\| &= \sqrt{2 \times 1^2 -2 \times 1 \times 0 + 0^2}\\ &= \sqrt{2} \end{align} \]

となります。自然内積では \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}1\\0\end{array}\right)\) の長さは \(1\) ですが、それとは異なる長さになるわけです。

\(V\) を閉区間 \([-\pi, \pi]\) で定義され、実数の値をとる連続関数をすべて集めてできる線形空間とします。 また、\(V\) における内積を、\(V\) に属している関数 \(f,g\) に対して、

\[ (f,g) = \int_{-\pi}^\pi f(x)g(x)dx \]

と定義しておきます。

\(V\) には、たとえば、三角関数 \(f(x)=\cos x\) が属しています。そこで、この \(f\) の長さを求めてみることにします。その計算には、\(\int_{-\pi}^\pi \cos^2 x\, dx\) の値が必要になるのでまずそれを計算しておきます。すると、

\[ \begin{align} \int_{-\pi}^\pi \cos^2 x\, dx &=\int_{-\pi}^\pi \frac{1 + \cos 2x}{2} dx\\[6pt] &=\frac12 \int_{-\pi}^\pi (1 + \cos 2x)dx\\[6pt] &=\frac12 \left[ x + \frac12 \sin 2x \right]_{-\pi}^\pi\\[6pt] &=\frac12 \left\{(\pi+0)-(-\pi+0)\right\}\\[6pt] &=\pi \end{align} \]

となります。ですから、この \(f(x)=\cos(x)\) の長さは、

\[ \begin{align} \|f\| &= \sqrt{(f,f)}\\[6pt] &= \sqrt{\int_{-\pi}^\pi \cos^2 x\, dx}\\[6pt] &= \sqrt \pi \end{align} \]

であることがわかります。

シュヴァルツの不等式と三角不等式

これから内積のもつ性質を2つ紹介します。これらの法則は、矢印であらわすことのできる幾何ベクトルの世界や数を並べたベクトルを扱う数ベクトルの空間で成り立っていることを以前証明してあります。 そして特に数ベクトルの空間に対して行った証明は成分を使わずに行われていたことを思い出してください。ですから、その証明は基本的にそのまま一般の線形空間の内積に対しても適用することができます。 ここではおさらいを兼ねて、もう一度証明を辿ってみることにします。

シュヴァルツの不等式

命題

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間のベクトル \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) に対して、 \[ |(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}) | \leq\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\| \] が成り立ちます。

これは、内積を作ってから絶対値をとったものはそれぞれの長さの積以下になるということを主張しています。

この不等式は、少しトリッキーな方法で証明することができます。

証明

\(\boldsymbol{a}=\boldsymbol{0}\) のときは両辺ともに \(0\) なので成り立ちます。 以下、\(\boldsymbol{a}\neq\boldsymbol{0}\) の場合を考えます。

証明すべき式では両辺とも \(0\) 以上なので、\(\text{右辺 }^2-\text{左辺 }^2\geq 0\) となることを示すことにします。

\[\begin{align} &(\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\|)^2-|(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})| ^2 \\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2\|\boldsymbol{b}\|^2-(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2(\boldsymbol{b},\boldsymbol{b})-(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})-(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})+(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})\\[6pt] &\qquad\boldsymbol{a}\neq\boldsymbol{0}\,\text{としているので}\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 \left\{ (\boldsymbol{b},\boldsymbol{b}) -\frac{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})}{\|\boldsymbol{a}\|^2}(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}}) -\frac{(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})}{\|\boldsymbol{a}\|^2}(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}) + \frac{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})}{\|\boldsymbol{a}\|^2}\frac{(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})}{\|\boldsymbol{a}\|^2}\|\boldsymbol{a}\|^2 \right\}\\[6pt] &\qquad\text{式を見やすくするために}\,k=\frac{(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})}{\|\boldsymbol{a}\|^2}\,\text{とおくと}\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 \left\{ (\boldsymbol{b},\boldsymbol{b}) -\overline{k}(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}}) -k(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}) + k\overline{k}\|\boldsymbol{a}\|^2 \right\}\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 \left\{ (\boldsymbol{b},\boldsymbol{b}) -\overline{k}(\boldsymbol{b},\boldsymbol{a}) -k(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}) + k\overline{k}(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a})\right\}\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 \left\{ (\boldsymbol{b},\boldsymbol{b}) -(\boldsymbol{b},k\boldsymbol{a}) -(k\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}) + (k\boldsymbol{a},k\boldsymbol{a})\right\}\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 \left\{(\boldsymbol{b},\boldsymbol{b}-k\boldsymbol{a})-(k\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}-k\boldsymbol{a}) \right\}\\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 (\boldsymbol{b}-k\boldsymbol{a} ,\boldsymbol{b}-k\boldsymbol{a}) \\[6pt] &=\|\boldsymbol{a}\|^2 \|\boldsymbol{b}-k\boldsymbol{a}\|^2 \geq 0 \end{align} \]

となり、証明することができました。 ちなみに最後の式より、等号が成り立つのは \(\boldsymbol{b}\)\(\boldsymbol{a}\) のナントカ倍になるときであることがわかります。
(証明終わり)

\(\mathbb{K}\)\(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) のどちらかをあらわすことにし、\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元数ベクトル空間とします。また、 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right), \, \boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\ y_n\end{array}\right)\) の内積として自然内積

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = x_1 \overline{y_1} + \cdots + x_n \overline{y_n} \]

を用いることにします。

このとき、シュヴァルツの不等式を具体的にあらわしてみると

\[ |x_1 \overline{y_1} + \cdots + x_n \overline{y_n}| \leq \sqrt{|x_1|^{\,2} + \cdots + |x_n|^{\,2}}\sqrt{|y_1|^{\,2} + \cdots + |y_n|^{\,2}} \tag{7} \]

となります。つまり、どんな数 \(x_1,\ldots x_n,y_1,\ldots, y_n\) に対しても\((7)\) 式の不等式が成り立つことがシュヴァルツの不等式によって保証されるわけです。特に、\(x_1,\ldots x_n,y_1,\ldots, y_n\) がすべて実数である場合には、

\[ |x_1 y_1 + \cdots + x_n y_n| \leq \sqrt{x_1^{\,2} + \cdots + x_n^{\,2}}\sqrt{y_1^{\,2} + \cdots + y_n^{\,2}} \tag{8} \]

が必ず成り立っていることになります。

\(\mathbb{K}\)\(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) のどちらかをあらわすことにし、\(V\)\(\mathbb{K}\) に値をとる無限数列 \((a_1,a_2,\cdots)\)で、\(\sum_{k=1}^{\infty}|a_k|^2\) が収束するものをすべて集めてできる線形空間とします。また、 \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=(x_1,x_2,\ldots), \, \boldsymbol{y}=(x_1,x_2,\ldots)\) に対して \(\sum_{k=1}^\infty x_k \overline{y_k}\) は実は収束し値が必ず確定します。

なぜなら… 一般に \(x_k, y_k\) がどんな数でも、

\[ 2|x_k||y_k| \leq |x_k|^2 + |y_k|^2 \tag{9} \]

が成り立ちます。このことは、\(x_k, y_k\) がどんな数でも、

\[ |x_k|^2 + |y_k|^2-2|x_k||y_k| = (|x_k|-|y_k|)^2\geq 0 \]

が成り立つことから直ちにわかります。 共役複素数の性質や複素数の絶対値に関する性質から、

\[|x_k y_k|=|x_k||y_k| = |x_k||\overline{y_k}|=|x_k \overline{y_k}|\]

が成り立つので、\((9)\) 式を

\[ 2|x_k \overline{y_k}| \leq |x_k|^2 + |y_k|^2 \tag{10} \]

と書き換えることができます。

\((10)\) 式より、すべての \(k\) について和をとり両辺を \(2\) で割れば、

\[ \sum_{k=1}^\infty |x_k \overline{y_k}| \leq \frac12 \left(\sum_{k=1}^\infty |x_k|^2 + \sum_{k=1}^\infty |y_k|^2\right) \tag{11} \]

が成り立ちます。いま(この例では)、\(\sum_{k=1}^\infty |x_k|^2\)\(\sum_{k=1}^\infty |y_k|^2\) は収束してちゃんと値が確定する場合のみを想定しています。そして、\((11)\) 式の左辺の \(\sum_{k=1}^\infty |x_k \overline{y_k}|\) は単調に増加する数列 \(\sum_{k=1}^n |x_k \overline{y_k}|\)\(n\to\infty\) のときの極限となっています。単調に増加し上に有界な数列は収束し値が確定することが解析学で知られているので、\(\sum_{k=1}^\infty |x_k \overline{y_k}|\) は収束し値が確定することになります。またさらに、各項の絶対値をとった数列の無限級数が収束するとき(これは絶対収束すると言われます)、絶対値をとらなくても収束することが解析学で知られています。ですから、\(\sum_{k=1}^\infty x_k \overline{y_k}\) も収束して値が確定することになります。
そこで、\(V\) の内積を \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=(x_1,x_2,\ldots), \, \boldsymbol{y}=(x_1,x_2,\ldots)\) に対して

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = \sum_{k=1}^\infty x_k \overline{y_k} \]

と定義することにします。

このとき、シュヴァルツの不等式を具体的にあらわしてみると

\[ \left|\sum_{k=1}^{\infty} x_k \overline{y_k}\right| \leq \sqrt{\sum_{k=1}^\infty|x_k|^{\,2}}\sqrt{\sum_{k=1}^\infty|y_k|^{\,2}} \tag{12} \]

となります。つまり、各項の絶対値を2乗してできる無限級数が収束するどんな数列 \((x_1,x_2,\ldots), (y_1,y_2,\ldots)\) に対しても\((12)\) 式の不等式が成り立つことがシュヴァルツの不等式によって保証されるわけです。特に、このときさらに \(x_1,x_2,\ldots,y_1,y_2,\ldots\) がすべて実数である場合には、

\[ \left|\sum_{k=1}^{\infty} x_k y_k\right| \leq \sqrt{\sum_{k=1}^\infty|x_k|^{\,2}}\sqrt{\sum_{k=1}^\infty|y_k|^{\,2}} \tag{13} \]

が必ず成り立っていることになります。

\(\mathbb{K}\)\(\mathbb{R}\) または \(\mathbb{C}\) のどちらかをあらわすことにし、\(V\) を閉区間 \([a, b]\) で定義され、\(\mathbb{K}\) に値をとる連続関数をすべて集めてできる線形空間とします。 また、\(V\) における内積を、\(V\) に属している関数 \(f,g\) に対して、

\[ (f,g) = \int_a^b f(x) \overline{g(x)}dx \]

と定義しておきます。

このとき、シュヴァルツの不等式を具体的にあらわしてみると

\[ \left|\int_a^b f(x) \overline{g(x)}dx\right| \leq \sqrt{\int_a^b |f(x)|^2dx}\sqrt{\int_a^b |g(x)|^2dx} \tag{14} \]

となります。つまり、閉区間 \([a,b]\) で定義されているどんな連続関数 \(f,g\) に対しても \((14)\) 式が成り立つわけです。また特に、\(f,g\) が実数の値をとる連続関数である場合には、

\[ \left|\int_a^b f(x) g(x)dx\right| \leq \sqrt{\int_a^b |f(x)|^2dx}\sqrt{\int_a^b |g(x)|^2dx} \tag{15} \]

が必ず成り立っていることになります。

三角不等式

命題

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間のベクトル \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) に対して、

\[ \| \boldsymbol{a} + \boldsymbol{b}\| \leq\|\boldsymbol{a}\|+ |\boldsymbol{b}\| \]

が成り立ちます。

これは、矢印であらわされる幾何ベクトルの世界では、出発点から目的地へ直進するときの距離は、折れ曲がって進むときの距離以下になるということを主張しています。

一般のベクトルの世界では、直前に紹介したシュヴァルツの不等式を使うと証明できます。

証明

証明すべき式では両辺とも \(0\) 以上なので、\(\text{右辺 }^2-\text{左辺 }^2\geq 0\) となることを示します。

\[\begin{align} &\left( \|\boldsymbol{a}\|+ \|\boldsymbol{b}\|\right)^2 -\|\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}\| ^2\\[6pt] &= \|\boldsymbol{a}\|^2+2 \|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\|+\| \boldsymbol{b}\|^2 -(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b},\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b})\\[6pt] &= \|\boldsymbol{a}\|^2+2 \|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\|+\| \boldsymbol{b}\|^2 -\left\{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{a})+(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})+(\boldsymbol{b},\boldsymbol{a})+(\boldsymbol{b},\boldsymbol{b})\right\}\\[6pt] &= \|\boldsymbol{a}\|^2+2 \|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\|+\| \boldsymbol{b}\|^2 -\left\{\|\boldsymbol{a}\|^2+(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})+(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})+\|\boldsymbol{b}\|^2\right\}\\[6pt] &= 2 \|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\| -\left\{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})+(\overline{\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}})\right\}\\[6pt] &\qquad\text{一般に複素数}\,z\,\text{に対して}\,z+\overline{z}\,\text{は}\,\\[6pt] & \qquad \quad z\,\text{の実数部分} \,\text{Re}(z)\, \text{の}\,2\,\text{倍に等しいことに注意すると}\\[6pt] &= 2 \|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\| -2\text{Re}(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})\\ &\qquad\text{一般に複素数} \,z\, \text{の大きさ} \,|z| \,\text{は}\\[6pt] &\qquad \quad \text{実数部分}\,\text{Re}(z)\,\text{以上になるので}\\[6pt] &\geq 2 \|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\| -2|(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})|\\[6pt] &=2 \left(\|\boldsymbol{a}\| |\boldsymbol{b}\| -|(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})|\right)\\[6pt] &\qquad\text{ここでシュヴァルツの不等式を使うと}\\[6pt] &\geq 0 \end{align}\]

となり、証明することができました。

この式変形を振り返ってみると、等号が成り立つのは、シュヴァルツの不等式で等号が成り立ち、かつ、\((\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})\)\(0\) 以上の実数 のときであることがわかります。言いかえると、\(\boldsymbol{b}\)\(\boldsymbol{a}\)\(0\) 以上の実数倍になっているときです。
(証明終わり)

2つのベクトルのなす角

定義

\(\mathbb{R}\) 上の線形空間 \(V\) の零ベクトルではない2つのベクトル \(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\) があるとします。

このとき \((\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})\) は実数なので、シュヴァルツの不等式 \(|(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})| \leq\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\|\) から

\[ -\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\|\leq (\boldsymbol{a},\boldsymbol{b} ) \leq\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\| \]

が成り立ち、これより、

\[ -1\leq \frac{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})}{\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\|} \leq 1 \]

が成り立ちます。ですから、

\[\cos \theta = \frac{(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})}{\|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\|}\]

を満たす数 \(\theta\)\(0\leq \theta \leq \pi\) の範囲にただ1つ存在します。このようにして定まる \(\theta\)\(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b}\)なす角 といい、\(\angle(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})\)という記号であらわします。

補足:\(\mathbb{C}\) 上の線形空間のベクトル対しては「なす角」という概念を定義しません。

補足:ベクトルを矢印で扱う幾何ベクトルの世界では、ベクトルどうしのなす角は直感的に定まっているもので、それを用いて幾何ベクトルどうしの内積を

\[(\boldsymbol{a},\boldsymbol{b})= \|\boldsymbol{a}\|\|\boldsymbol{b}\|\cos\theta\]

と定義したのでした。しかし一般のベクトル空間の場合にはそのように定義するわけにはいきません。そこで、内積から出発し、逆に考えていくことによりベクトルどうしのなす角を定義したことになります。そして、シュヴァルツの不等式がそのようなことができることを保証しているわけです。

\(V\)\(\mathbb{R}\) 上の \(4\) 次元数ベクトル空間とし、\(V\) の内積として自然内積を用いることにします。

自然内積を使って、\(V\) の2つのベクトル

\[ \boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{r} 1\\ 1\\ 1\\ -1 \end{array}\right),\, \boldsymbol{y} =\left(\begin{array}{c} 2\\ 2\\ 3\\ 1 \end{array}\right) \]

のなす角を求めてみることにします。

\[ \begin{align} & \|\boldsymbol{x}\| =\sqrt{1^2+1^2+1^2+(-1)^2} = 2\\[6pt] & \|\boldsymbol{y}\| = \sqrt{2^2+2^2+3^2+1^2} = 3\sqrt{2}\\[6pt] & (\boldsymbol{x}, \boldsymbol{y})=1\times 2+1\times 2+1\times 3+(-1)\times 1=6 \end{align} \]

となっていることが計算でわかります。\(\boldsymbol{x}\)\(\boldsymbol{y}\) のなす角を \(\theta\) とすると、これらより、

\[ \cos\theta=\frac{(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})}{\|\boldsymbol{x}\|\|\boldsymbol{y}\|}=\frac{6}{2\times 3\sqrt{2}}=\frac{1}{\sqrt{2}} \]

となるわけですから、この式が成り立つ \(\theta\)\(0\leq \theta \leq \pi\) の範囲で探すと、

\[ \theta = \frac{\pi}{4} \]

であることがわかります。

\(V\) を閉区間 \([-\pi, \pi]\) で定義され、実数の値をとる連続関数をすべて集めてできる線形空間とします。 また、\(V\) における内積を、\(V\) に属している関数 \(f,g\) に対して、

\[ (f,g) = \int_{-\pi}^\pi f(x)g(x)dx \]

と定義しておきます。

\(V\) に属している関数 \(f(x)=\cos x\)\(g(x)=\sin x\) のなす角を求めてみることにします。

\[ \begin{align} (f,g) &=\int_{-\pi}^\pi \cos x \sin x\, dx\\[6pt] &=\int_{-\pi}^\pi \frac{\sin 2x}{2} dx\\[6pt] &= \frac12 \int_{-\pi}^\pi \sin 2x dx\\[6pt] &= \frac12 \left[-\frac12\cos 2x\right]_{-\pi}^\pi\\[6pt] &=-\frac14\left( 1 - 1\right)\\[6pt] &=0 \end{align} \]

となることから、\(f(x)=\cos x\)\(g(x)=\sin x\) のなす角を \(\theta\) とすると、

\[ \cos \theta = \frac{(f,g)}{\|f\|\|g\|}=0 \]

を満たすことにます。この式が成り立つ \(\theta\)\(0\leq \theta \leq \pi\) の範囲で探すと、

\[ \theta = \frac{\pi}{2} \]

であることがわかります。

ちなみに、三角関数の加法定理を用いるなどして真面目に積分の計算をすると、

\[ \begin{align} & \|f\| = \sqrt{\int_{-\pi}^\pi \cos x\, dx} = \sqrt{\pi}\\ & \|g\| = \sqrt{\int_{-\pi}^\pi \sin x\, dx} = \sqrt{\pi}\\ \end{align} \]

であることがわかりますが、いまの場合、これらを計算しなくてもなす角を求めることができました。

ベクトルどうしが直交するとは

幾何ベクトルの空間では、2つのベクトルのなす角が \(\frac{\pi}{2}\) のときそれらのベクトルは直交するといい、そのときそれら2つのベクトルの内積は \(0\) になるのでした。

これを逆手に取って、一般の計量線形空間では、2つのベクトルの内積が \(0\) になるとき、それらは直交するということにします。

つまり、\(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間のベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) に対して、\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=0\) が成り立つとき、\(\boldsymbol{x}\)\(\boldsymbol{y}\)直交するということにするわけです。

\(V\)\(\mathbb{R}\) 上2次元の数ベクトル空間とします。そして \(V\) における内積を、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right),\, \boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\end{array}\right)\) に対して

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=2x_1 y_1 - x_1 y_2 - x_2 y_1 + x_2 y_2 \]

と定義されるものを用いることにします。

たとえば、\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}1\\0\end{array}\right),\, \boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}0\\1\end{array}\right)\) の内積を計算してみることにしましょう。すると、

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=2\times 1 \times 0 - 1 \times 1 - 0 \times 0 + 0 \times 1 = -1 \]

となり、\(0\) にはなりません。つまり、自然内積では直交していた \(\boldsymbol{x}=\left(\begin{array}{c}1\\0\end{array}\right)\)\(\boldsymbol{y}=\left(\begin{array}{c}0\\1\end{array}\right)\) は、この内積では直交していないわけです。

\(V\) を閉区間 \([-\pi, \pi]\) で定義され、実数の値をとる連続関数をすべて集めてできる線形空間とします。 また、\(V\) における内積を、\(V\) に属している関数 \(f,g\) に対して、

\[ (f,g) = \int_{-\pi}^\pi f(x)g(x)dx \]

と定義しておきます。

\(V\) には \(\cos x,\cos 2x,\cos 3x, \ldots\)\(\sin x, \sin 2x, \sin 3x ,\ldots\) のような三角関数が属しています。積分の計算を真面目に行えば、これらの関数に対して、

\[ \begin{align} & (\cos mx,\sin nx)=\int_{-\pi}^\pi \cos mx\sin nx\, dx = 0\\ & (\cos mx,\cos nx)=\int_{-\pi}^\pi \cos mx\cos nx\, dx = 0 \,\,(\text{ただし} m \neq n \text{のとき} )\\ & (\sin mx,\sin nx)=\int_{-\pi}^\pi \sin mx\sin nx\, dx = 0 \,\,(\text{ただし} m \neq n \text{のとき} )\\ \end{align} \]

であることがわかります。つまり、この内積では、 \(\cos mx\)\(\sin nx\) は直交し、\(m \neq n\) のとき、\(\cos mx\)\(\cos nx\) は直交、\(\sin mx\)\(\sin nx\) は直交していることになります。

まとめ

線形空間には、計量をおこなう(ベクトルの長さやなす角などを扱う)ための道具として、内積と呼ばれるものを導入することがあります。

内積は、2つのベクトルから1つの数を作る操作で、 いくつかの条件を満たすものです。具体的には、

\(\mathbb{K}\) 上の線形空間 \(V\) の ベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) に対し \(\mathbb{K}\) に属している1つの数 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) をつくる操作があり、\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\) が、

  1. \((\boldsymbol{x}_1+\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{y})=(\boldsymbol{x}_1,\boldsymbol{y})+(\boldsymbol{x}_2,\boldsymbol{y})\)
    \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_1+\boldsymbol{y}_2)=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y_1})+(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}_2)\)
  2. \((\alpha\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=\alpha(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)
    \((\boldsymbol{x},\alpha\boldsymbol{y})=\overline{\alpha}(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)
  3. \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})=\overline{(\boldsymbol{y},\boldsymbol{x})}\)
  4. \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{x})\) は必ず \(0\) 以上の実数で \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{x}) =0\) となるのは \(\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\) のときに限る。

という条件を満たすとき、\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})\)\(V\) の内積と呼びます。

内積 \((\quad ,\quad)\) は左の変数に関しては線形ですが、右の変数に関しては“共役”線形です。そして、変数の入れ替えに関して“共役”つきの対称性を持っています。また、自分自身の内積は必ず \(0\) 以上の実数となり、それが \(0\) となるのは零ベクトルだけです。

内積の導入されている線形空間を計量線形空間と呼びます。

ある1つの線形空間に内積を導入する方法はいくらでもあります。そして、内積が異なれば、計量線形空間としては別のものと考えなくてはなりません。

一般の線形空間に導入される内積に関しても、幾何ベクトルの空間や数ベクトル空間の場合と同様に、シュヴァルツの不等式、三角不等式が成り立ちます。

内積を用いると、ベクトルの長さ(ノルム)や2つのベクトルのなす角、ベクトルの直交という概念を定義することができます。

線形写像と行列の階数 計量線形空間の基底とその変換