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行列の標準形

2022-6-17

適切に基本変形を繰り返すことにより、行列は「標準形」と呼ばれる形へ変形することができるという話をします。

標準形の行列

行列が、

\[ \left( \begin{array}{cccccccc} 1 & 0 & \cdots & 0 & 0 & \cdots & \cdots & 0\\ 0 & 1 & \ddots & 0 & 0 & \cdots & \cdots & 0\\ \vdots & \ddots & \ddots & & \vdots & & & \vdots \\ 0 & 0 & & 1 & 0 & \cdots & \cdots & 0\\ 0 & 0 & \cdots & 0 & 0 &\cdots & \cdots & 0\\ \vdots & \vdots & & \vdots &\vdots & & &\vdots \\ 0 & 0 &\cdots & 0 & 0 & \cdots & \cdots & 0 \end{array}\right), \quad \left(\begin{array}{cccccccc} 1 & 0 & 0 & \cdots & 0 & 0 & \cdots & 0\\ 0 & 1 & 0 & \cdots & 0 & 0 &\cdots & 0\\ 0 & 0 & 1 & \cdots & 0 & 0 & \cdots& 0\\ \vdots & \vdots & \vdots &\ddots & \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & 0 & \cdots & 1& 0 & \cdots & 0 \end{array}\right),\,\\[6pt] \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 0 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & 1 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & 0 & 1 & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \vdots &\ddots & \vdots \\ 0 & 0 & 0 & \cdots & 1\\ 0 & 0 & 0 & 0 &0\\ \vdots & \vdots & \vdots & \vdots & \vdots \\ 0 & 0 & 0 & 0 &0 \end{array}\right),\quad \left(\begin{array}{ccccc} 1 & 0 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & 1 & 0 & \cdots & 0 \\ 0 & 0 & 1 & \cdots & 0 \\ \vdots & \vdots & \vdots &\ddots & \vdots \\ 0 & 0 & 0 & \cdots & 1 \end{array}\right) \]

のような形をしているとき、これらの行列は標準形であるといいます。つまり、標準形と呼ばれている行列では、左上から右下へ向かう対角線の上以外ではすべて \(0\) が並び、左上から右下へ向かう対角線の上に \(1\) が並び続けますが、その途中のどこかから先が全部 \(0\) になっていることもあります。これらの行列は正方行列ではなくても構いません。つまり、横長の行列や縦長の行列も含まれています。

基本変形と標準形

実は、どんな行列も適切に基本変形を繰り返すことにより標準形へ変形することができます。
これから詳しく説明していきますが、全体のイメージを紹介すると、次のような流れになります。

\[ \begin{array}{cccccc} \left(\begin{array}{rrrrr} * & * & * & * & *\\ * & * & * & * & *\\ * & * & * & * & *\\ * & * & * & * & * \end{array}\right) & \Rightarrow & \left(\begin{array}{|r|rrrr} \hline 1 & * & * & * & * \\ \hline * & * & * & * & *\\ * & * & * & * & *\\ * & * & * & * & * \end{array}\right) & \Rightarrow & \left(\begin{array}{|r|rrrr} \hline 1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & * & * & * & *\\ 0 & * & * & * & *\\ 0 & * & * & * & * \end{array}\right) & \\ & & & & \Downarrow \\ & &\left(\begin{array}{r|r|rrr} 1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 1 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & * & * & *\\ 0 & 0 & * & * & * \end{array}\right) & \Leftarrow & \left(\begin{array}{r|r|rrr} 1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 1 & * & * & *\\ \hline 0 & * & * & * & *\\ 0 & * & * & * & * \end{array}\right) & \\ & & \Downarrow & & \\ & & \left(\begin{array}{rr|r|rr} 1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 1 & * & *\\ \hline 0 & 0 & * & * & * \end{array}\right) & \Rightarrow & \left(\begin{array}{rr|r|rr} 1 & 0 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 1 & 0 & 0\\ \hline 0 & 0 & 0 & * & * \end{array}\right) &\Rightarrow \cdots \end{array} \]

掃出しと呼ばれる操作

上で紹介した流れで変形を進めるとき、具体的には次の定理の証明中で説明する操作を使います。この操作は掃出しと呼ばれることがあります。

定理

\(A\) がどんな行列であっても必ず次のことを実行することができます。

  1. \(A\) のある列に \(0\) ではない数が含まれているとき、行に関する基本変形を何回か行って、その列にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) となるようにできます。 とくにその列が第 \(i\) 列のときは、その列の第 \(i\) 成分のみを \(1\) にすることができます。
  2. \(A\) のある行に \(0\) ではない数が含まれているとき、列に関する基本変形を何回か行って、その行にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) となるようにできます。 とくに その行が第 \(i\) 列のときは、その行の第 \(i\) 成分のみを \(1\) にすることができます。

証明

  1. いま、行列 \(A =\left( \begin{array}{cccccc} & & & a_{1i} & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & \vdots & & \\ & & & a_{si} & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & a_{mi} & & \end{array} \right)\) の第 \(i\)\(\left(\begin{array}{c} a_{1i}\\ \vdots\\ \vdots\\ a_{si}\\ \vdots\\ a_{mi}\\ \end{array}\right)\)\(s\) 番目の成分 $a_{si} $ が \(0\) ではなかったとしましょう。
    まず、\(A\) に「第 \(s\) 行を \(\displaystyle \frac{1}{a_{si}}\) 倍する」という基本変形をおこなうと、

    \[\left( \begin{array}{cccccc} & & & a_{1i} & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & \vdots & & \\ & & & a_{si} & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & a_{mi} & & \end{array} \right) \Rightarrow \left( \begin{array}{cccccc} & & & a_{1i} & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & \vdots & & \\ & & & 1 & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & a_{mi} & & \end{array} \right) \]

    となります。これでまず第 \(i\) 列の第 \(s\) 成分が \(1\) になりました。そこで次に行に関する基本変形を使って第 \(i\) 列の第 \(s\) 成分以外を \(0\) にできるか考えます。
    今できたばかりの \(1\) が役立ちます。どういうことかというと、さらに、\(A\) の 第 \(s\) 行以外について、
    \(1\) 行に第 \(s\) 行を \(-a_{1i}\) 倍したものを足す、
    \(2\) 行に第 \(s\) 行を \(-a_{2i}\) 倍したものを足す、
    \(\qquad \vdots\)
    \(m\) 行に第 \(s\) 行を \(-a_{mi}\) 倍したものを足す、
    という基本変形をすべておこなうことにより、

    \[ \left( \begin{array}{cccccc} & & & a_{1i} & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & \vdots & & \\ & & & 1 & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & a_{mi} & & \end{array} \right) \Rightarrow \left( \begin{array}{cccccc} & & & 0 & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & \vdots & & \\ & & & 1 & & \\ & * & & \vdots & * & \\ & & & 0 & & \end{array} \right) \]

    となります。これで行に関する基本変形を行って、その列にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) となるようにできました。
    ところで、はじめの行列 \(A\) で、第 \(i\) 列の \(i\) 番目の数 $a_{ii} $ が \(0\) でなければ、上記の一連の操作を(第 \(s\) 行というより)第 \(i\) 行を使って行うことができます。
    また、はじめの行列 \(A\) で、第 \(i\) 列の \(i\) 番目の数 $a_{ii} $ が \(0\) ならば、上記の一連の操作をする前に、\(A\) の 第 \(s\) 行 と第 \(i\) 行を入れ替える基本変形をしておくと \((i,i)\) 成分の位置に \(a_{si}(\neq 0)\) が来ます。
    そのようにしてから、第 \(i\) 行を使って上記の操作をすれば、第 \(i\) 成分のみを \(1\)、その上下はすべて \(0\) にすることができます。
  2. これは行と列の役割を交換して考えれば 1.と同様にできることがわかります。

    (証明終わり)

    なんだかよくわからないという人もいるかもしれません。 例で確認してみることにします。

  1. \(A=\left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ -2 & -1 & 0 & 1 & 5\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right)\) とします。
    \(A\) の第 \(2\)\(\left(\begin{array}{r} 2 \\ 0\\ -1 \\ 1 \end{array}\right)\) には \(0\) ではない数があります。 そこで例えば、第 \(3\) 成分 の \(-1\) に注目し、\(A\) に行に関する基本変形だけをおこない第 \(2\) 列の第 \(3\) 成分を \(1\) 、第 \(3\) 成分以外を全部 \(0\) にしてみることにしましょう。
    \(A\) の第 \(3\) 行を \(-1\) 倍するという基本変形を行うと、

    \[ \left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ \hline -2 & \boxed{-1} & 0 & 1 & 5\\ \hline 3 & 1& 1 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ \hline 2 & \boxed{1} & 0 & -1 & -5\\ \hline 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right) \]

    となり、注目している位置が \(1\) になります。
    次に、この \(\boxed{1}\) の上下をすべて \(0\) にしていきます。
    \(1\) 行から第 \(3\) 行の \(2\) 倍を引きます。第 \(3\) 行の \(2\) 倍は \(\left(\begin{array}{ccccc}4 & 2 & 0 & -2 & 10\end{array}\right)\) ですから

    \[ \left(\begin{array}{rrrrr} \hline 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ \hline 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ 2 & \boxed{1} & 0 & -1 & -5\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrrr} \hline -4 & 0 & 4 & 4 &-9\\ \hline 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ 2 & \boxed{1} & 0 & -1 & -5\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right) \]

    となります。
    \(4\) 行から第 \(3\) 行の \(1\) 倍を引きます。 第 \(3\) 行の \(1\) 倍は \(\left(\begin{array}{ccccc}2 & 1 & 0 & -1 & -5\end{array}\right)\) ですから

    \[ \left(\begin{array}{rrrrr} -4 & 0 & 4 & 4 &-9\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ 2 & \boxed{1} & 0 & -1 & -5\\ \hline 3 & 1 & 1 & -2 & 0\\ \hline \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrrr} -4 & 0 & 4 & 4 &-9\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ 2 & \boxed{1} & 0 & -1 & -5\\ \hline 1 & 0 & 1 & -1 & 5\\ \hline \end{array}\right) \]

    となります。これで、第 \(2\) 列にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) にすることができました。
    それでは今度ははじめに戻り、行に関する基本変形だけで、 \(A=\left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ -2 & -1 & 0 & 1 & 5\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right)\) の第 \(2\) 列の「第 \(2\) 成分」が \(1\) で、それ以外はすべて \(0\) にしてみようと思います。
    いま、\(A\) の第 \(2\)\(\left(\begin{array}{r} 2 \\ 0\\ -1 \\ 1 \end{array}\right)\) では 「第 \(2\) 成分 」は \(0\) ですが、例えば 第 \(4\) 成分は \(0\) ではありません。
    そこでまず、\(A\) の第 \(2\) 行と 第 \(4\) 行を入れ替える基本変形を行えば、次のように第 \(2\) 列の「第 \(2\) 成分」は \(0\) ではなくなります。

    \[ \left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ -2 & -1 & 0 & 1 & 5\\ \hline 3 & \boxed{1} & 1 & -2 & 0\\ \hline \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ \hline 3 & \boxed{1} & 1 & -2 & 0\\ \hline -2 & -1 & 0 & 1 & 5\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ \end{array}\right) \]

    次は第 \(2\) 列の「第 \(2\) 成分」を \(1\) にする基本変形を行う場面ですが、運の良いことにすでにそうなっています。
    この先は前と同じです。この \(\boxed{1}\) の上下をすべて \(0\) にしていきます。
    \(1\) 行から第 \(2\) 行の \(2\) 倍を引く、 第 \(3\) 行から第 \(2\) 行の \(-1\) 倍を引く、 という基本変形を行えば良いわけです。 そうすると、

    \[ \left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & 2 &1\\ 3 & \boxed{1} & 1 & -2 & 0\\ -2 & -1 & 0 & 1 & 5\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrrr} -6 & 0 & 2 & 6 &1\\ 3 & \boxed{1} & 1 & -2 & 0\\ -2 & -1 & 0 & 1 & 5\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrrr} -6 & 0 & 2 & 6 &1\\ 3 & \boxed{1} & 1 & -2 & 0\\ 1 & 0 & 1 & -1 & 5\\ 1 & 0 & 3 & 1 & -2\\ \end{array}\right) \]

    となり、第 \(2\) 列の「第 \(2\) 成分」にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) にすることができました。

  2. \(B=\left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & -6 &1\\ 1 & 0 & 3 & -4 & -2\\ -1 & -4 & 0 & 2 & -2\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right)\) とします。
    \(B\) の 第 \(3\)\(\left(\begin{array}{ccccc} -1 & -4 & 0 & 2 & -2\end{array}\right)\) には \(0\) ではない数があります。 そこで例えば、第 \(4\) 成分 の \(2\) に注目し、列に関する基本変形だけを使ってみることにしましょう。
    \(B\) の第 \(4\) 列を \(\frac12\) 倍するという基本変形を行うと、

    \[ \left(\begin{array}{rrr|r|r} 0 & 2 & 4 & -6 &1\\ 1 & 0 & 3 & -4 & -2\\ -1 & -4 & 0 & \boxed{2} & -2\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrr|r|r} 0 & 2 & 4 & -3 &1\\ 1 & 0 & 3 & -2 & -2\\ -1 & -4 & 0 & \boxed{1} & -2\\ 3 & 1 & 1 & -1 & 0 \end{array}\right) \]

    となり、注目している位置が \(1\) になります。
    次に、この \(\boxed{1}\) の左右をすべて \(0\) にしていきます。
    \(1\) 列から第 \(4\) 列の \(-1\) 倍を引きます。 第 \(4\) 列の \(-1\) 倍は \(\left(\begin{array}{r}3\\2\\-1\\1\end{array}\right)\) ですから、

    \[\left(\begin{array}{|r|rrrr} 0 & 2 & 4 & -3 &1\\ 1 & 0 & 3 & -2 & -2\\ -1 & -4 & 0 & \boxed{1} & -2\\ 3 & 1 & 1 & -1 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{|r|rrrr} -3 & 2 & 4 & -3 &1\\ -1 & 0 & 3 & -2 & -2\\ -0 & -4 & 0 & \boxed{1} & -2\\ 2 & 1 & 1 & -1 & 0 \end{array}\right) \]

    となります。
    \(2\) 列から第 \(4\) 列の \(-4\) 倍を引きます。
    \(4\) 列の \(-4\) 倍は \(\left(\begin{array}{r}-12\\8\\-4\\4\end{array}\right)\) ですから、

    \[ \left(\begin{array}{r|r|rrr} -3 & 2 & 4 & -3 &1\\ -1 & 0 & 3 & -2 & -2\\ -0 & -4 & 0 & \boxed{1} & -2\\ 2 & 1 & 1 & -1 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{r|r|rrr} -3 & -10 & 4 & -3 &1\\ -1 & -8 & 3 & -2 & -2\\ -0 & 0 & 0 & \boxed{1} & -2\\ 2 & -3 & 1 & -1 & 0 \end{array}\right) \]

    となります。
    \(5\) 列から第 \(4\) 列の \(-2\) 倍を引きます。
    \(4\) 列の \(-2\) 倍は \(\left(\begin{array}{r}6\\4\\-2\\2\end{array}\right)\) ですから、

    \[\left(\begin{array}{rrrr|r|} -3 & -10 & 4 & -3 &1\\ -1 & -8 & 3 & -2 & -2\\ -0 & 0 & 0 & \boxed{1} & -2\\ 2 & -3 & 1 & -1 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rrrr|r|} -3 & -10 & 4 & -3 &-5\\ -1 & -8 & 3 & -2 & -6\\ -0 & 0 & 0 & \boxed{1} & 0\\ 2 & -3 & 1 & -1 & -2 \end{array}\right) \]

    となります。
    これで、第 \(3\) 行にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) にすることができました。
    それでは今度ははじめに戻り、列に関する基本変形だけを使い、 \(B=\left(\begin{array}{rrrrr} 0 & 2 & 4 & -6 &1\\ 1 & 0 & 3 & -4 & -2\\ -1 & -4 & 0 & 2 & -2\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right)\) の第 \(3\) 行の「第 \(3\) 成分」が \(1\) で、それ以外はすべて \(0\) にしてみようと思います。
    \(B\) の第 \(3\)\(\left(\begin{array}{r} -1 \\ -4 \\ 0 \\ 2 \end{array}\right)\) では 「第 \(3\) 成分 」は \(0\) ですが、例えば 第 \(1\) 成分は \(0\) ではありません。 そこでまず、\(B\) の第 \(3\) 列と 第 \(1\) 列を入れ替える基本変形を行えば、次のように第 \(3\) 行の「第 \(3\) 成分」は \(0\) ではなくなります。

    \[\left(\begin{array}{|r|rrrr} 0 & 2 & 4 & -6 &1\\ 1 & 0 & 3 & -4 & -2\\ \boxed{-1} & -4 & 0 & 2 & -2\\ 3 & 1 & 1 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & 0 & 1 & -4 & -2\\ 0 & -4 & \boxed{-1} & 2 & -2\\ 1 & 1 & 3 & -2 & 0 \end{array}\right) \]

    次は第 \(3\) 行の「第 \(3\) 成分」を \(1\) にする基本変形を行う場面です。
    そのために、\(B\) の第 \(3\) 列に \(-1\) を掛ける基本変形を行うと、

    \[ \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & 0 & 1 & -4 & -2\\ 0 & -4 & \boxed{-1} & 2 & -2\\ 1 & 1 & 3 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & 0 & -1 & -4 & -2\\ 0 & -4 & \boxed{1} & 2 & -2\\ 1 & 1 & -3 & -2 & 0 \end{array}\right) \]

    となります。
    この先は前と同じです。
    この \(\boxed{1}\) の左右をすべて \(0\) にしていきます。
    \(2\) 列から第 \(3\) 列の \(-4\) 倍を引く、 第 \(4\) 列から第 \(3\) 列 の \(2\) 倍を引く、 第 \(5\) 列から第 \(3\) 列 の \(-2\) 倍を引く、 という基本変形を行えば良いわけです。
    そうすると、

    \[ \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & 0 & -1 & -4 & -2\\ 0 & -4 & \boxed{1} & 2 & -2\\ 1 & 1 & -3 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & -4 & -1 & -4 & -2\\ 0 & -0 & \boxed{1} & 2 & -2\\ 1 & 13 & -3 & -2 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & -4 & -1 & 2 & -2\\ 0 & 0 & \boxed{1} & 0 & -2\\ 1 & 13 & -3 & -8 & 0 \end{array}\right) \Rightarrow \left(\begin{array}{rr|r|rr} 4 & 2 & 0 & -6 &1\\ 3 & -4 & -1 & 2 & 4\\ 0 & -0 & \boxed{1} & 0 & 0\\ 1 & 13 & -3 & -8 & 6 \end{array}\right) \]

    となり、第 \(3\) 行の「第 \(3\) 成分」にはただ1つ \(1\) があり、それ以外はすべて \(0\) にすることができました。

標準形への変形

上で学んだ掃出しと呼ばれる操作を使うと、どんな行列も標準形へ変形することができます。

これから手順を説明します。

行列 \(A\) があるとします。

  1. \(A\) の成分がすべて \(0\) ならば何もしません。なぜなら、すでに \(A\) は標準形だからです。
    \(A\)\(0\) ではない成分があるとき、 必要なだけ行または列の交換を行う基本変形を使って \((1,1)\) 成分が \(0\) ではないようにします。(\(A\)\((1,1)\) 成分が始めから \(0\) でなければこの操作は不要です。)
    それができたら \((1,1)\) 成分を使って、第 \(1\) 行と第 \(1\) 列を掃出します。その結果、次のような形になります。

    \[\left(\begin{array}{cc} 1 & \begin{array}{ccc} 0 & \cdots & \cdots & 0 \end{array}\\ \begin{array}{c} 0\\ \vdots \\ 0 \end{array} & * \end{array}\right)\]

    \(*\) の部分がすべて \(0\) なら終了です。 これで標準形になっているからです。 \(*\) の部分に \(0\) ではない数があれば次へ進みます。

  2. 必要なだけ行または列の交換を行う基本変形を使って、\(*\) の部分の \(0\) ではない数が \((2,2)\) 成分の位置に来るようにします。
    それができたら \((2,2)\) 成分を使って、第 \(2\) 行と第 \(2\) 列を掃出します。 その結果、次のような形になります。

    \[\left(\begin{array}{cc} \begin{array}{cc}1 & 0 \\ 0 & 1 \end{array} & \begin{array}{c} \cdots & \cdots & 0\\ \cdots & \cdots & 0 \end{array} \\ \begin{array}{cc} 0 & 0 \\ \vdots & \vdots \\ 0 & 0 \end{array} & * \end{array}\right)\]

    \(*\) の部分がすべて \(0\) なら終了です。 これで標準形になっているからです。 \(*\) の部分に \(0\) ではない数があれば次へ進みます。

  3. 必要なだけ行または列の交換を行う基本変形を使って、\(*\) の部分の \(0\) ではない数が \((3,3)\) 成分の位置に来るようにします。
    それができたら \((3,3)\) 成分を使って、第 \(3\) 行と第 \(3\) 列を掃出します。
     ︙
     ︙
     ︙
    このような操作を可能な限り続けることにより標準形に到達することができます。

\(\left(\begin{array}{rrrr} 0 & 2 & 4 & 2 \\ 1 & 2 & 3 & 1\\ -2 &-1 & 0 & 1 \end{array}\right)\) を標準形へ変形してみます。

まず、\((1,1)\) 成分が \(1\) になるようにして、第 \(1\) 行と第 \(1\) 列を掃出します。そのためにはどうすればよいでしょうか。
いま \((1,1)\) 成分は \(0\) です。そして、たとえば第 \(2\) 行の第 \(1\) 成分が \(1\) であることに注目すると、とりあえず第 \(1\) 行と第 \(2\) 行を交換して \((1,1)\) 成分を \(1\) にしてみるところから始めるのが良さそうです。すると以下のように次々に基本変形を適用して第 \(1\) 行と第 \(1\) 列の掃出しを実現できます。

\[ \left(\begin{array}{rrrr} 0 & 2 & 4 & 2 \\ 1 & 2 & 3 & 1\\ -2 &-1 & 0 & 1 \end{array}\right) \stackrel{1,2\,\text{行入れ替え}}{\Rightarrow}\;\; \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 2 & 3 & 1\\ 0 & 2 & 4 & 2 \\ -2 &-1 & 0 & 1 \end{array}\right) \stackrel{3\text{行}-1\text{行}\times(-2)}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 2 & 3 & 1\\ 0 & 2 & 4 & 2 \\ 0 & 3 & 6 & 3 \end{array}\right)\\[24pt] \stackrel{2\text{列}-1\text{列}\times 2}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 3 & 1\\ 0 & 2 & 4 & 2 \\ 0 & 3 & 6 & 3 \end{array}\right) \stackrel{3\text{列}-1\text{列}\times 3}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 1\\ 0 & 2 & 4 & 2 \\ 0 & 3 & 6 & 3 \end{array}\right) \stackrel{3\text{列}-1\text{列}}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 2 & 4 & 2 \\ 0 & 3 & 6 & 3 \end{array}\right) \]

次に、\((2,2)\) 成分が \(1\) になるようにして、第 \(2\) 行と第 \(2\) 列を掃出します。
いま、\((2,2)\) 成分は \(2\) ですからたとえば第 \(2\) 行を \(\frac12\) 倍するという基本変形をすれば \((2,2)\) 成分が \(1\) になります。ですからあとはその \(1\) をつかって第 \(2\) 行と第 \(2\) 列を掃出して行けばよいわけです。すると次のようにできます。

\[ \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 2 & 4 & 2 \\ 0 & 3 & 6 & 3 \end{array}\right) \stackrel{2\text{行}\times\frac12}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 2 & 1 \\ 0 & 3 & 6 & 3 \end{array}\right) \stackrel{3\text{行}-2\text{行}\times 3}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 2 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{array}\right)\\[24pt] \stackrel{3\text{列}-2\text{列}\times 2}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{array}\right) \stackrel{4\text{列}-2\text{列}}{\Rightarrow} \left(\begin{array}{rrrr} 1 & 0 & 0 & 0\\ 0 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{array}\right) \]

以上で標準形へ到達することができました。

まとめ

行列の成分が、左上から斜め \(45\) 度右下へ向かって \(1\) が連続していくつか並び、それ以外はすべて \(0\) であるようになっているとき、その行列は標準形であるといいます。

適切に基本変形を繰り返すことにより、行列は「標準形」と呼ばれる形へ変形することができます。

行列の基本変形 基本変形と逆行列