目次
続きは現在作成中

数ベクトルの空間の一次写像

2022-6-9

\(n\) 次の数ベクトル \(\left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right)\) をすべて集めてできる集合を \(n\) 次の数ベクトル空間といいます。

ここでは数ベクトル空間の一次写像について説明しますが、数学の流儀に従って説明していくために、まず、集合と写像の概念について簡単に説明します。

集合と写像

集合と要素

範囲がはっきりしているモノの集まりを集合といいます。そしてよく、アルファベットの大文字を使って、集合 \(X\) のようにあらわします。

集合に属しているそれぞれのメンバーを要素といいます。そして、 要素 \(x\) が集合 \(X\) に属しているということを \(\in\)\(\ni\) という記号を使って、\(x \in X\) のようにあらわしたり、 \(X \ni x\) のようにあらわしたりします。

次に、集合の正体(つまり集合の中身)を記号を使って伝える方法を説明します。

集合をあらわすには中括弧を使い、

  • 属している要素をすべて並べて書く
  • 要素が満たしている条件を書く

という2通りの方法があります。いくつかの例を見てみることにしましょう。

\(3,4,5\) という数が集まってできる集合を考えることにし、その集合を \(X\) であらわすことにしましょう。 例えば \(3\)\(X\) に属しているメンバー(つまり 要素)ですから、 \[3 \in X\] と書きあらわすことができます。そしてもちろん \(4\)\(5\)\(X\) に属しているメンバー(つまり 要素)ですから、 \[4 \in X\] \[5 \in X\] と書きあらわすことができます。

それでは次に、この集合 \(X\) の正体(つまり集合 \(X\) の中身)をあらわしてみることにしましょう。

  • 属している要素をすべて並べて書く場合 \[ X=\{3,4,5\} \] とあらわすことができます。
  • 要素が満たしている条件を書く場合 \[ X=\{n \mid n\,\text{は}\, 3\,\text{以上}\, 5\,\text{以下の整数}\} \] とあらわすことができます。

つまり、 \[ X=\{3,4,5\} \] と書いてあったら、「\(X\)\(3\)\(4\)\(5\) が集まってでいている集合ですよ。」と言っているわけです。そして \[ X=\{n \mid n\,\text{は}\, 3\,\text{以上}\, 5\,\text{以下の整数}\} \] と書いてあったら、「\(X\)\(n\) たちが集まってできている集合ですよ。ただし \(n\)\(3\) 以上 \(5\) 以下なんですけどね。」と言っているわけです。 (縦の棒 \(|\) で仕切って「ただし…」という気分をだし、そのあとに条件を書くことによって集合の中身をあらわしているわけです。)

すべての \(3\) 次の数ベクトルが集まってできる集合を \(V\) という記号であらわすことにしてみます。すると、たとえば

\[ \left(\begin{array}{r} 5\\ -4\\ -1 \end{array}\right) \in V,\, \left(\begin{array}{r} 0\\ 0\\ 0 \end{array}\right) \in V,\, \left(\begin{array}{r} -1\\ -\frac47\\ \sqrt{3} \end{array}\right) \in V \]

などとなります。

この集合をあらわす場合、属している要素をすべて並べて書く方法は向いていません。なぜならこの要素に属しているメンバー(つまり要素)の個数は無限だからです。

というわけで、要素が満たしている条件を書く方法でこの集合 \(V\) をあらわしてみることにすると、例えば、

\[ V=\{\boldsymbol{u} \mid \boldsymbol{u}\,\text{は}\, 3\,\text{次の数ベクトル}\} \]

\[ V=\left\{\left(\begin{array}{c}x\\y\\z\end{array}\right) \middle| \,x,y,z\,\text{は実数}\right\} \]

などとあらわすことができます。

写像

2つの集合 \(X,Y\) があるとします。そして、何らかの決まり \(f\) によって、 \(X\) の各要素 \(x\) に対して \(Y\) の要素 \(y\) をただ1つ対応させることを考えることにします。このようなとき、決まり \(f\) を 集合 \(X\) から 集合 \(Y\) への写像といいます。 また、写像 \(f\) により \(X\) の要素 \(x\) に対応させられることになる \(Y\) の要素を \(f(x)\) という記号であらわします。

\(f\) が集合 \(X\) から 集合 \(Y\) への写像であるということを \[f:X\to Y\] のようにあらわします。

偶数すべてを集めてできる集合を \(X\)、奇数すべてを集めてできる集合を \(Y\) とします。つまり、 \[X=\{x \mid x\, \text{は偶数}\}\] \[Y=\{y \mid y\, \text{は奇数}\}\] とします。そして、

\(X\) の各要素に \(1\) を足す

という決まりを考えることにし、この決まりを \(f\) という記号であらわすことにします。

偶数に \(1\) をたすと必ず奇数になりますから、この決まり \(f\)\(X\) から \(Y\) への写像になっています。

たとえば、この決まり \(f\) によって偶数 \(2\) は奇数 \(3\) に対応し、偶数 \(10\) は奇数 \(11\) に対応しますから、 \[f(2)=3,\,f(10)=11\] のように記号であらわすことができます。 もっと一般に、\(X\) の要素 \(x\)\(Y\) の要素 \(x+1\) に対応するわけですから、この写像は \[f: X \to Y\] \[f(x) = x+1\] とあらわすことができます。

すべての \(2\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(V\)、すべての \(3\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(W\) とします。つまり

\[ V=\left\{\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) \middle| \,x,y\,\text{は実数}\right\} \]

\[ W=\left\{\left(\begin{array}{c}s\\t\\u\end{array}\right) \middle| \,s,t,u\,\text{は実数}\right\} \]

とします。そして

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ 0 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりを考えることにし、記号 \(f\) であらわすことにします。

この決まり \(f\)\(V\) から \(W\) への写像です。そしてたとえば、

\[f\left( \left( \begin{array}{r} 3\\ 5 \end{array} \right)\right) = \left( \begin{array}{r} 3\\ 5\\ 0 \end{array} \right) ,\quad f \left(\left( \begin{array}{r} -4\\ 2 \end{array} \right) \right) = \left( \begin{array}{r} -4\\ 2\\ 0 \end{array} \right) \]

などとなります。

すべての \(2\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(V\) とします。つまり \[ V=\left\{\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) \middle| \,x,y\,\text{は実数}\right\} \] とします。そして

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1-x_2\\ x_1+x_2 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりを考えることにし、記号 \(f\) であらわすことにします。

この決まり \(f\)\(V\) から \(V\) (つまり自分自身)への写像です。そしてたとえば、

\[ f\left( \left( \begin{array}{r} 1\\ 0 \end{array} \right)\right) = \left( \begin{array}{r} 1\\ 1 \end{array} \right) ,\quad f \left(\left( \begin{array}{r} 0\\ 1 \end{array} \right) \right) = \left( \begin{array}{r} -1\\ 1 \end{array} \right) \]

などとなります。

写像の合成

集合 \(X\) から 集合 \(Y\) への写像 \(f\) と、集合 \(Y\) から 集合 \(Z\) への写像 \(g\) があるとします。つまり、 \[f:X \to Y\]\[g:Y \to Z\] があるとします。

このとき、\(f\)\(g\) を繋いでできる写像を考えることができます。

つまり、まず、\(X\) の要素 \(x\)\(f\) を使って \(Y\) の要素 \(f(x)\) を対応させ、さらに \(g\) を使って \(Z\) の要素 \(g(f(x))\) を対応させる \(X\) から \(Z\) への写像を作ることができます。この写像を \(f\)\(g\)合成写像といい、\(g \circ f\) という記号であらわします。このようにして \[g\circ f :X \to Z\] をつくることができるわけです。

注意:\(g \circ f\) は まず \(f\) を先に行い、次に \(g\) を行う写像です。\(f\)\(g\) を書く順番によく注意しましょう。

すべての \(2\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(V\)、すべての \(3\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(W\) とします。つまり \[ V=\left\{\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) \middle| \,x,y\,\text{は実数}\right\} \]

\[ W=\left\{\left(\begin{array}{c}s\\t\\u\end{array}\right) \middle| \,s,t,u\,\text{は実数}\right\} \] とします。

そして \(V\) から \(W\) への写像 \(f\)\[f:V\to W\]

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1-x_2\\ x_1+x_2\\ 0 \end{array} \right)\) を対応させる

とし、\(W\) から \(W\) への写像 \(g\)\[g:W\to W\]

\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} y_1\\ y_2\\ y_3 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} y_2\\ y_1\\ y_3 \end{array} \right)\) を対応させる

として定めておきます。

このとき \[V \stackrel{f}{\to} W \stackrel{g}{\to} W\] のように繋ぐことにより \(f\)\(g\) の合成写像をつくることができます。つまり、\(V\) から \(W\) への写像 \[g \circ f: V\to W\] をつくることができるわけです。 それではこの写像 \(g \circ f\) で、例えば \(\left( \begin{array}{c} 2\\ 3 \end{array} \right)\) という \(V\) の要素が最終的に \(W\) のどんな要素に対応させられるか追跡してみたいと思います。 まず、\(f : V \to W\) によって \[ \begin{align} \left( \begin{array}{c} 2\\ 3 \end{array} \right) &\mapsto \left( \begin{array}{c} 2-3\\ 2+3\\ 0 \end{array} \right)\\[6pt] &\quad= \left( \begin{array}{r} -1\\ 5\\ 0 \end{array} \right) \end {align} \] となります。そして \(g : W \to W\) によって \[ \begin{align} \left( \begin{array}{r} -1\\ 5\\ 0 \end{array} \right) &\mapsto \left( \begin{array}{r} 5\\ -1\\ 0 \end{array} \right) \end {align} \] となります。ですから最終的には \(g \circ f\) によって \(\left( \begin{array}{c} 2\\ 3 \end{array} \right)\) という \(V\) の要素は \(\left( \begin{array}{r} 5\\ -1\\ 0 \end{array} \right)\) という \(W\) の要素に対応させられるわけです。つまり \[\begin{align} (g\circ f) \left(\left( \begin{array}{c} 2\\ 3 \end{array} \right)\right) &=g \left(f\left( \begin{array}{c} 2\\ 3 \end{array} \right)\right)\\[6pt] &=g\left(\left( \begin{array}{r} -1\\ 5\\ 0 \end{array} \right)\right)\\[6pt] &=\left( \begin{array}{r} 5\\ -1\\ 0 \end{array} \right) \end{align}\] と書くことができます。

以上では、2つの写像 \(f :V \to W\)\(g :W \to W\)\[V \stackrel{f}{\to} W \stackrel{g}{\to} W\] の順に繋ぎ \(f\)\(g\) の合成写像 \(g\circ f\) をつくりましたが、この例の \(f\)\(g\) では \(f\)\(g\) の順番を逆にして \(f \circ g\) を作ることはできないことにも注意しておきましょう。

一次写像と一次変換

\(n\) 次の数ベクトル空間 \(V\)\(m\) 次の数ベクトル空間 \(W\) があるとします。 そして、\(V\) から \(W\) への写像 \(f\) で、以下の条件をみたすものを考えることにします。

  1. どんな \(\boldsymbol{x} \in V\) と、どんな \(\boldsymbol{y} \in V\) に対しても、 \[ f(\boldsymbol{x} + \boldsymbol{y} )=f(\boldsymbol{x} )+f(\boldsymbol{y} ) \] が成り立つ。
  2. どんな \(\boldsymbol{x} \in V\) と どんな数 \(r\) に対しても \[ f(r\boldsymbol{x} )=rf(\boldsymbol{x} ) \] が成り立つ。

このような写像を \(V\) から \(W\) への一次写像といいます。

補足:1、2 の条件を言葉で言うと次のようになります。

1.は 「\(V\) で2つの数ベクトルの和をとってから \(f\)\(Y\)の数ベクトルに対応させたもの」と「2つの \(V\) の数ベクトルをそれぞれ \(f\)\(Y\) の数ベクトルに対応させてから \(Y\) で和をとったもの」が等しくなるという条件です。 つまり、\(f\) で対応させる限り、 先に \(V\) で和をとってもあとで \(W\) で和をとっても同じになるという条件です。

2.は 「\(V\) で数ベクトルをスカラー倍してから \(f\)\(Y\)の数ベクトルに対応させたもの」と「\(V\) の数ベクトルを \(f\)\(Y\) の数ベクトルに対応させてから \(Y\) でスカラー倍したもの」が等しくなるという条件です。つまり、\(f\) で対応させる限り、 先に \(V\) でスカラー倍してもあとで \(W\) でスカラー倍しても同じになるという条件です。

数ベクトルの空間 \(V\) から自分自身 \(V\) への一次写像は特に、 \(V\)一次変換と呼ばれることがあります。

行列により定義される一次写像や一次変換

\((m,n)\) 型の行列 \(A\) があるとします。 このとき、これから説明するように、\(A\) を使って \(n\) 次の数ベクトルの空間 \(V\) から \(m\) 次の数ベクトル空間 \(W\) への一次写像を作ることができます。

いま \(A\)\((m,n)\) 型の行列です。そして \(V\) のどんな数ベクトル \(\boldsymbol{x}\)\((n,1)\) 型の行列と思うことができます。ですから行列としての積 \(A\boldsymbol{x}\) を作ることができます。

\(A\boldsymbol{x}\)\((m,1)\) 型になるはずですから \(m\) 次の数ベクトルと思うことができます。 そこで、

\(V\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、 \(W\) の数ベクトル \(A\boldsymbol{x}\) を対応させる

という写像を考えることができます。

この写像は行列 \(A\) で決定されるものですから、ここでは(気分を出すために \(f\) とか \(g\) ではなく)\(T_A\) という記号であらわすことにしてみます。

というわけで、 \[ \begin{align} T_A:V \to W\\[15pt] T_A(\boldsymbol{x})=A\boldsymbol{x} \end{align} \] という \(V\) から \(W\) への写像 \(T_A\) を作ることができました。

それでは、ここで、実はさらに、この写像が「一次写像」になっていることを確認してみたいと思います。

行列の積に関して分配法則などが成り立つことに注意すると \[ \begin{align} T_A(\boldsymbol{x} +\boldsymbol{y}) &= A(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})\\[6pt] &= A\boldsymbol{x} + A\boldsymbol{y}\\[6pt] &=T_A(\boldsymbol{x} )+ T_A(\boldsymbol{y}) \end{align} \] が成り立ち、 \[ \begin{align} T_A(r\boldsymbol{x} ) &=A(r\boldsymbol{x})\\[6pt] &=r(A\boldsymbol{x})\\[6pt] &=rT_A(\boldsymbol{x}) \end{align} \] が成り立つことがわかります。これで \(T_A\) は一次写像であることが確認できました。

\((2,3)\) 型の行列 \(A=\left(\begin{array}{rrr} 1 & -1 & 2\\ -3 & 0 & 4 \end{array}\right)\) によって、これまで上で説明してきたようにして、\(3\) 次の数ベクトル空間 \(V\) から \(2\) 次の数ベクトル空間 \(W\) への一次写像 \(T_A\) を作ることができます。つまり、

\(V\) のベクトルを \(\boldsymbol{x} = \left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2\\ x_3 \end{array}\right)\) とすると、

\[ T_A(\boldsymbol{x} ) = \left( \begin{array}{rrr} 1 & -1 & 2\\ -3 & 0 & 4 \end{array} \right) \left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2\\ x_3 \end{array}\right) = \left( \begin{array}{c} x_1 -x_2 + 2x_3\\ -3x_1+ 4x_3 \end{array} \right) \]

となります。

\(T_A\)\(V\) の数ベクトル \(\left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2\\ x_3 \end{array}\right)\)\(W\) の数ベクトル \(\left( \begin{array}{c} x_1 -x_2 + 2x_3\\ -3x_1+ 4x_3 \end{array} \right)\) を対応させる一次写像です。ですからたとえば、\(\boldsymbol{x} = \left( \begin{array}{r} 3\\ 1\\ -5 \end{array}\right)\) のとき、

\[ \begin{eqnarray} T_A(\boldsymbol{x} ) &=& \left( \begin{array}{rrr} 1 & -1 & 2\\ -3 & 0 & 4 \end{array} \right) \left( \begin{array}{r} 3\\ 1\\ -5 \end{array}\right)\\ &=&\left(\begin{array}{c} 1\times 3 -1\times 1 + 2\times (-5)\\ -3\times 3 + 0 \times1 +4\times(-5) \end{array}\right)\\ &=&\left(\begin{array}{c} -12\\ -29 \end{array}\right) \end{eqnarray} \]

となります。

補足
ところでもちろん、ここで説明したようにして行列を使えば、 \(V\) から \(V\) への一次変換(つまり \(V\) から自分自身 \(V\) への一次写像)を作ることもできます。そのとき使う行列は正方行列になります。

疑問
ここまで、行列によって数ベクトル空間の一次写像を定義できることを見てきました。つまり、\((m,n)\) 型の行列があると、それを \(n\) 次の数ベクトルに左から掛けることにより \(m\) 次数ベクトルが得られるので、\(n\) 次の数ベクトル空間から \(m\) 次の数ベクトル空間への写像をつくることができ、その写像は一次写像となる条件を満たしていたわけです。ところで、そのような仕方とは違う方法で定義される一次写像はあるのでしょうか?

この質問の答えとなるのが次の定理です。

定理

\(n\) 次の数ベクトルの空間 \(V\) から \(m\) 次の数ベクトル空間 \(W\) へのどんな一次写像 \(f\) も、必ずある\((m,n)\) 型行列 \(A\) を使って(上で説明してきたような) \(T_A\) として定義されるものと同じになります。

これからこの定理の証明を行いますが、そのために必要な概念と補題をまず述べます。

\(n\) 次の数ベクトル空間には、

\[ \boldsymbol{e}_1 = \left(\begin{array}{c} 1\\ 0\\ \vdots\\ 0 \end{array}\right), \boldsymbol{e}_2 = \left(\begin{array}{c} 0\\ 1\\ \vdots\\ 0 \end{array}\right), \ldots, \boldsymbol{e}_n = \left(\begin{array}{c} 0\\ 0\\ \vdots\\ 1 \end{array}\right) \]

という \(n\) 個の数ベクトルがありますが、これらを \(n\) 項単位ベクトルといいます。

注意:高校で学ぶ数学に合わせて、幾何ベクトルを説明したところではこれらのベクトル(及びこれらに対応する数ベクトル)を「基本ベクトル」と呼びましたが、以後 \(n\) 項単位ベクトルと呼ぶことにします。

補題

\(n\) 次の数ベクトル \(\boldsymbol{x} = \left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right)\)\(n\) 項単位ベクトル \(\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2,\ldots,\boldsymbol{e}_n\) を用いて、 \[\boldsymbol{x} = x_1\boldsymbol{e}_1 + x_2\boldsymbol{e}_2 + \cdots + x_n\boldsymbol{e}_n\] とあらわすことができます。

この主張が成り立つことは明らかでしょう。

では、いよいよ定理の証明をしてみたいと思います。

証明

上の補題で述べたように、\(n\) 次数ベクトルの空間 \(V\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\)\[\boldsymbol{x} = x_1\boldsymbol{e}_1 + x_2\boldsymbol{e}_2 + \cdots + x_n\boldsymbol{e}_n\] とあらわしておきます。 \(f\) は一次写像ですから、

\[ \begin{eqnarray} f(\boldsymbol{x}) &=& f(x_1\boldsymbol{e}_1 + x_2\boldsymbol{e}_2 + \cdots + x_n\boldsymbol{e}_n)\\ &=& x_1f(\boldsymbol{e}_1) + x_2f(\boldsymbol{e}_2) + \cdots + x_nf(\boldsymbol{e}_n) \end{eqnarray} \]

が成り立ちます。

\(f(\boldsymbol{e}_1),f(\boldsymbol{e}_2),\ldots,f(\boldsymbol{e}_n)\) はいずれも \(m\) 次の数ベクトルですから、なにかしらの数たち \(a_{11},a_{12},\ldots,a_{mn}\) によって、

\[f(\boldsymbol{e}_1) = \left(\begin{array}{c} a_{11}\\ a_{21}\\ \vdots\\ a_{m1} \end{array}\right), f(\boldsymbol{e}_2) = \left(\begin{array}{c} a_{12}\\ a_{22}\\ \vdots\\ a_{m2} \end{array}\right), \ldots, f(\boldsymbol{e}_n) = \left(\begin{array}{c} a_{1n}\\ a_{2n}\\ \vdots\\ a_{mn} \end{array}\right) \]

とあらわされるはずです。

すると、次のようにちょっとした計算をして

\[\begin{align} f(\boldsymbol{x}) &= x_1\left(\begin{array}{c} a_{11}\\ a_{21}\\ \vdots\\ a_{m1} \end{array}\right) + x_2\left(\begin{array}{c} a_{12}\\ a_{22}\\ \vdots\\ a_{m2} \end{array}\right) + \cdots + x_n\left(\begin{array}{c} a_{1n}\\ a_{2n}\\ \vdots\\ a_{mn} \end{array}\right)\\[6pt] &=\left(\begin{array}{c} a_{11}x_1+a_{12}x_2+\cdots+a_{1n}x_n\\ a_{21}x_1+a_{22}x_2+\cdots+a_{2n}x_n\\ \vdots\\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+\cdots+a_{mn}x_n\\ \end{array}\right)\\[6pt] &=\left(\begin{array}{cccc} a_{11} & a_{12} & \ldots & a_{1n}\\ a_{21} & a_{22} & \ldots & a_{2n}\\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots\\ a_{m1} & a_{m2} & \ldots & a_{mn}\\ \end{array}\right) \left(\begin{array}{c} x_1\\ x_2\\ \vdots\\ x_n \end{array}\right) \end{align} \]

とあらわすことができます。

最後の行に現れた$ (m,n)$ 型行列を \(A\) とあらわすことにすると、一次写像 \(f\) は行列 \(A\) を使って \(T_A\) を作ったものと同じであるということがわかります。
(証明終わり)

以上で、数ベクトル空間から数ベクトル空間への一次写像は、「何かしらの行列を数ベクトルを左から掛ける」という決まりで定まる写像しかないということがわかりました。

一次写像の和・スカラー倍と行列

一次写像の和

\(V\)\(n\) 次の数ベクトル空間、 \(W\)\(m\) 次の数ベクトル空間 とします。 また \(V\) から \(W\) への2つの一次写像 \[ \begin{align} & f:V \to W\\ & g:V \to W \end{align} \] があるとします。これら2つの写像から、あらたに、\(V\) から \(W\) への写像 を次のような決まりであらわされるものとして作ることができます。

決まり:\(V\) のそれぞれの数ベクトル \(x\) に対して、\(W\) の数ベクトル \(f(\boldsymbol{x}) + g(\boldsymbol{x})\) を対応させる。

この決まりで定まる写像を \(f\)\(g\) の和といい、\(f+g\) という記号であらわします。

つまり、\(f\)\(g\) を使って \(V\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) から \(W\) の数ベクトル \(f(\boldsymbol{x})\)\(g(\boldsymbol{x})\) をつくり、最後にその2つを \(W\) の中でたして \(f(\boldsymbol{x}) + g(\boldsymbol{x})\) をつくるわけです。このようにして \(V\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) からできる \(W\) の数ベクトルを \((f+g)(\boldsymbol{x})\) と書きあらわすことにしているわけです。

ですから、この写像を式を使って書けば

\[ \begin{align} f+g & :V \to W\\[10pt] (f+g)(\boldsymbol{x}) &= f(\boldsymbol{x}) + g(\boldsymbol{x}) ,\: \boldsymbol{x} \in V \end{align} \]

ということです。

このようにして作られる写像 \(f+g\) は、実はちゃんと一次写像になっています。

そのことを確かめてみます。

\(V\) の2つの数ベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) や数 \(r\) に対して、

\[ \begin{eqnarray}(f+g)(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}) &=& f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})+g(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})\\[6pt] & & \qquad \downarrow f\, \text{と}\, g\, \text{は一次写像なので}\\[6pt] &=&f(\boldsymbol{x})+f(\boldsymbol{y}) + g(\boldsymbol{x})+g(\boldsymbol{y})\\[6pt] & & \qquad \downarrow W \text{でのベクトルの和の交換法則}\\[6pt] &=& f(\boldsymbol{x})+g(\boldsymbol{x}) + f(\boldsymbol{y})+g(\boldsymbol{y})\\[6pt] & & \qquad \downarrow f+g\, \text{の定義より}\\[6pt] &=&(f+g)(\boldsymbol{x}) +(f+g)(\boldsymbol{y}) \end{eqnarray}\]

\[\begin{eqnarray} (f+g)(r\boldsymbol{x}) &=&f(r\boldsymbol{x})+g(r\boldsymbol{x})\\[6pt] & & \qquad \downarrow f\, \text{と}\, g\, \text{は一次写像なので}\\[6pt] &=&rf(\boldsymbol{x})+rg(\boldsymbol{x})\\[6pt] & & \qquad \downarrow W \text{でのベクトルのスカラー倍の性質}\\[6pt] &=&r(f(\boldsymbol{x})+ g(\boldsymbol{x})\\[6pt] & & \qquad \downarrow f+g\, \text{の定義より}\\[6pt] &=&r\left((f+g)(\boldsymbol{x})\right) \end{eqnarray} \]

となるので、\(f+g\) は一次写像であるための条件を満たすことがわかりました。

すべての \(2\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(V\)、すべての \(3\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(W\) とします。つまり

\[ V=\left\{\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) \middle| \,x,y\,\text{は実数}\right\} \]

\[ W=\left\{\left(\begin{array}{c}s\\t\\u\end{array}\right) \middle| \,s,t,u\,\text{は実数}\right\} \]

とします。

そして \(V\) から \(W\) への写像 \(f\)\[f:V\to W\]

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} 5x_1-3x_2\\ -x_1+2x_2\\ x_1-x_2 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりで定まるものとし、もう一つの \(V\) から \(W\) への写像 \(g\)\[g:V\to W\]

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1-3x_2\\ -2x_1+3x_2\\ 2x_1+x_2 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりで定まるものとします。

この2つの写像 \(f\)\(g\) が一次写像であることは簡単に確認できます。
なぜなら… \(f:V\to W\)

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} 5x_1-3x_2\\ -x_1+2x_2\\ x_1-x_2 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりで定まる写像です。ところで

\[\left( \begin{array}{c} 5x_1-3x_2\\ -x_1+2x_2\\ x_1-x_2 \end{array} \right) =\left(\begin{array}{r} 5 & -3\\ -1 & 2\\ 1 & -1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{r} x_1\\ x_2 \end{array}\right) \]

とできるわけですから、\(f\)\(V\) のベクトルにある行列を左から掛けることによって \(W\) のベクトルを対応させる写像です。このような写像が一次写像であることはすでに知っています。\(g \colon V \to W\) についても全く同じ理由で一次写像であることがわかります。

それではこのとき、\(f+g\) という記号であらわされる \(V\) から \(W\) への写像がどのようなものになるのか見てみることにします。

\(f+g\) は「\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\)」 に 「\(W\) のベクトル \(f(\boldsymbol{x})\)\(g(\boldsymbol{x})\)\(W\) の中でたしてできるベクトル \(f(\boldsymbol{x})+g(\boldsymbol{x})\)」を対応させるという決まりで定まる写像です。

たとえば、\(\left(\begin{array}{r} 2\\ 1\end{array}\right)\) という \(V\) のベクトルは \(f\) によって

\[ \left( \begin{array}{c} 5\times2-3\times1\\ -1\times2+2\times1\\ 2-1 \end{array} \right) =\left( \begin{array}{c} 7\\ 0\\ 1 \end{array} \right) \]

という \(W\) のベクトルに対応させられるわけです。また、同じように計算すれば \(\left(\begin{array}{r} 2\\ 1\end{array}\right)\) という \(V\) のベクトルは \(g\) によって

\[ \left( \begin{array}{c} 2-3\times1\\ -2\times2+3\times1\\ 2\times 2+1 \end{array} \right) =\left( \begin{array}{r} -1\\ -1\\ 5 \end{array} \right) \]

という \(W\) のベクトルに対応させられることがわかります。\(f+g\) という写像ではこれら2つのベクトルをさらに \(W\) の中でたしたものに対応させるわけです。ですから、\(f+g\) は、\(\left(\begin{array}{r} 2\\ 1\end{array}\right)\) という \(V\) のベクトルは

\[ \left( \begin{array}{c} 7\\ 0\\ 1 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{r} -1\\ -1\\ 5 \end{array} \right) =\left( \begin{array}{r} 6\\ -1\\ 6 \end{array} \right) \]

という \(W\) のベクトルに対応させることがわかります。

このことを式を使った計算で書くとすると、たとえば、

\[\begin{align} (f+g)\left( \left( \begin{array}{r} 2\\ 1 \end{array} \right) \right) &=f\left(\left( \begin{array}{r} 2\\ 1 \end{array} \right)\right) + g\left(\left( \begin{array}{r} 2\\ 1 \end{array} \right)\right)\\[6pt] &=\left( \begin{array}{r} 7\\ 0\\ 1 \end{array} \right) + \left( \begin{array}{r} -1\\ -1\\ 5 \end{array} \right) \\[6pt] &=\left( \begin{array}{r} 6\\ -1\\ 6 \end{array} \right) \end{align} \]

のようになります。

もっと一般に、\(V\) のベクトル \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\) に対して

\[\begin{align} (f+g)\left( \left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2 \end{array} \right) \right) &=f\left(\left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\right) +g\left(\left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\right)\\[6pt] &=\left( \begin{array}{c} 5x_1-3x_2\\ -x_1+2x_2\\ x_1-x_2 \end{array} \right) +\left( \begin{array}{c} x_1-3x_2\\ -2x_1+3x_2\\ 2x_1+x_2 \end{array} \right)\\[6pt] &=\left( \begin{array}{c} 6x_1-6x_2\\ -3x_1+5x_2\\ 3x_1 \end{array} \right) \end{align} \]

と計算できますから、\(f+g : V \to W\)

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} 6x_1-6x_2\\ -3x_1+5x_2\\ 3x_1 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりで定まる写像であることがわかります。

一次写像のスカラー倍

\(V\)\(n\) 次の数ベクトル空間、 \(W\)\(m\) 次の数ベクトル空間 とします。また \(V\) から \(W\) への一次写像 \(f:V \to W\) と数 \(r\) があるとします。

この写像と数 \(r\) から、あらたに、\(V\) から \(W\) への写像 を次のような決まりで定められるものとして作ることができます。

決まり:\(V\) のそれぞれの数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、\(W\) の数ベクトル \(r(f(\boldsymbol{x}) )\) を対応させる。

つまり、「\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\)」 に 「\(W\) のベクトル \(f(\boldsymbol{x})\)\(W\) の中で \(r\) 倍してできるベクトル \(r\left(f(\boldsymbol{x})\right)\)」を対応させるわけです。

この決まりで定まる写像を \(f\)\(r\)といい、\(rf\) という記号であらわします。

式を使って書くと

\[ \begin{align} rf &:V \to W\\[10pt] (rf)(\boldsymbol{x}) &= r(f(\boldsymbol{x})),\: \boldsymbol{x} \in V \end{align} \]

ということです。

このようにして作られる写像 \(rf\) は、ちゃんと一次写像になっています。このことは一次写像の和のときと同じようにして計算で確認できます。

すべての \(2\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(V\)、すべての \(3\) 次の実数の数ベクトルが集まってできる集合を \(W\) とします。つまり

\[ V=\left\{\left(\begin{array}{c}x\\y\end{array}\right) \middle| \,x,y\,\text{は実数}\right\} \]

\[ W=\left\{\left(\begin{array}{c}s\\t\\u\end{array}\right) \middle| \,s,t,u\,\text{は実数}\right\} \]

とします。

そして \(V\) から \(W\) への写像 \(f\)\[f:V\to W\]

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} 2x_1-5x_2\\ -x_1+3x_2\\ x_1+x_2 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりで定まるものとします。また、数 \(r\) として \(3\) という数を用意することにします。

このとき、\(3f\) という記号であらわされる \(V\) から \(W\) への写像がどのようなものになるのか見てみることにします。

\(3f\) は「\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\)」 に 「\(W\) のベクトル \(f(\boldsymbol{x})\)\(W\) の中でさらに \(3\) 倍してできるベクトル \(3\left(f(\boldsymbol{x})\right)\)」を対応させるという決まりで定まる写像です。

たとえば、\(\left(\begin{array}{r} 2\\ 1\end{array}\right)\) という \(V\) のベクトルは \(f\) によって

\[ \left( \begin{array}{c} 2\times2-5\times1\\ -1\times2+3\times1\\ 2+1 \end{array} \right) =\left( \begin{array}{c} -1\\ 1\\ 3 \end{array} \right) \]

という \(W\) のベクトルに対応させられるわけですから、\(3f\) という写像ではこのベクトルを \(W\) の中でさらに \(3\) 倍して

\[ 3\left( \begin{array}{c} -1\\ 1\\ 3 \end{array} \right) =\left( \begin{array}{c} -3\\ 3\\ 9 \end{array} \right) \]

という \(W\) のベクトルに対応させることがわかります。

このことを式を使った計算で書くとすると、たとえば、

\[\begin{align} (3f)\left( \left( \begin{array}{r} 2\\ 1 \end{array} \right) \right) &=3\left( f\left( \begin{array}{r} 2\\ 1 \end{array} \right) \right)\\[6pt] &=3\left( \begin{array}{c} 2\times2-5\times1\\ -1\times2+3\times1\\ 2+1 \end{array} \right)\\[6pt] &=\left( \begin{array}{c} -3\\ 3\\ 9 \end{array} \right) \end{align} \]

のようになります。

もっと一般に、\(V\) のベクトル \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\) に対して

\[\begin{align} (3f)\left( \left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2 \end{array} \right) \right) &=3\left( f\left( \begin{array}{r} x_1\\ x_2 \end{array} \right) \right)\\[6pt] &=3\left( \begin{array}{c} 2x_1-5x_2\\ -x_1+3x_2\\ x_1+x_2 \end{array} \right)\\[6pt] &=\left( \begin{array}{c} 6x_1-15x_2\\ -3x_1+9x_2\\ 3x_1+3x_2 \end{array} \right) \end{align} \]

と計算できますから、\(3f : V \to W\)

\(V\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} x_1\\ x_2 \end{array} \right)\)\(W\) の要素 \(\left( \begin{array}{c} 6x_1-15x_2\\ -3x_1+6x_2\\ 3x_1+3x_2 \end{array} \right)\) を対応させる

という決まりで定まる写像であることがわかります。

一次写像の和、スカラー倍と行列の関係

数ベクトルの世界では、どんな一次写像も「ある行列を左から掛ける」という決まりであらわされるのでした。

\(V\) から \(W\) への2つの一次写像 \(f,g\) があり、それらをあらわす行列をそれぞれ \(A,B\) とします。また 数 \(r\) があるとします。

このとき \(f\)\(g\) の和 \(f+g\)\(f\)\(r\)\(rf\) は一次写像になりますが、これらをあらわす行列はどんなものになるのか考えてみます。

いま \(V\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、

\[\begin{array}{l} f(\boldsymbol{x}) = A\boldsymbol{x},\\ g(\boldsymbol{x})=B\boldsymbol{x} \end{array}\]

となるわけですから、\(f+g\) について \[\begin{eqnarray} (f+g)(\boldsymbol{x})&=&f(\boldsymbol{x})+g(\boldsymbol{x})\\ &=&A\boldsymbol{x}+B\boldsymbol{x}\\ &=&(A+B)\boldsymbol{x} \end{eqnarray}\] と計算することができます。これはつまり、\(f+g\) は行列 \(A+B\) を左から掛けるという決まりであらわされる一次写像であることを意味しています。

また \(rf\) については \[\begin{eqnarray} (rf)(\boldsymbol{x}) &=& r(f(\boldsymbol{x}))\\ &=&r(A\boldsymbol{x})\\ &=&(rA)\boldsymbol{x} \end{eqnarray}\] となります。 つまり、\(rf\) は行列 \(rA\) を左から掛けるという決まりであらわされる一次写像であることがわかります。

一次写像の合成と行列

一次写像の合成

\(V\)\(l\) 次の数ベクトル空間、\(W\)\(m\) 次の数ベクトル空間、\(U\)\(n\) 次の数ベクトル空間とします。 また、\(V\) から \(W\) への一次写像 \[ f:V \to W \]\(W\) から \(U\) への一次写像 \[ g: W \to U \] があるとします。

このとき、\(f\)\(g\) の合成写像 \(g\circ f\) を考えることができ、これは \(V\) から \(U\) への写像 \[ g\circ f:V \to U \] になるのでした。

このようにして作られる写像 \(g\circ f\) は、実はちゃんと一次写像になっています。

そのことを確かめてみます。

\(V\) の 2つの数ベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) や数 \(r\) に対して、

\[ \begin{eqnarray} (g\circ f)(\boldsymbol{x} +\boldsymbol{y}) &=& g(f(\boldsymbol{x} +\boldsymbol{y}))\\[6pt] & & \qquad \downarrow f\, \text{は一次写像なので}\\[4pt] &=&g(f(\boldsymbol{x} )+f(\boldsymbol{y}))\\[6pt] & & \qquad \downarrow g\, \text{は一次写像なので}\\[4pt] &=&g(f(\boldsymbol{x} ))+g(f(\boldsymbol{y}))\\[6pt] & & \qquad \downarrow g\circ f \, \text{の定義より}\\[6pt] &=&(g\circ f)(\boldsymbol{x}) + (g\circ f)(\boldsymbol{y}) \end{eqnarray} \]

\[ \begin{eqnarray} (g\circ f)(r\boldsymbol{x}) &=& g(f(r\boldsymbol{x}))\\[4pt] & & \qquad \downarrow f\, \text{は一次写像なので}\\[4pt] &=&g(r(f(\boldsymbol{x} )))\\[4pt] & & \qquad \downarrow g\, \text{は一次写像なので}\\[4pt] &=&r(g(f(\boldsymbol{x} )))\\[4pt] & & \qquad \downarrow g\circ f \, \text{の定義より}\\[4pt] &=&r((g\circ f)(\boldsymbol{x})) \end{eqnarray} \]

が成り立つことがわかります。 これで \(g\circ f\) は一次写像であるための条件を満たすことがわかりました。

一次写像の合成と行列の関係

\(V\) から \(W\) への一次写像 \(f\) をあらわす行列を \(A\)\(W\) から \(U\) への一次写像 \(g\) をあらわす行列を \(B\) とします。

このとき \(f\)\(g\) の合成 \(g\circ f\) は一次写像になりますが、これらをあらわす行列はどんなものなのかということを考えてみます。

いま \(V\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\)\(W\) の数ベクトル \(\boldsymbol{y}\) とに対して、 \[ \begin{array}{l} f(\boldsymbol{x}) = A\boldsymbol{x},\\ g(\boldsymbol{y})=B\boldsymbol{y} \end{array} \] となっているわけです。 ですから、 \[\begin{eqnarray} (g\circ f)(\boldsymbol{x}) &=&g(f(\boldsymbol{x}))\\ &=&g(A\boldsymbol{x})\\ &=&B(A(\boldsymbol{x}))\\ &=&(BA)\boldsymbol{x} \end{eqnarray}\]

となります。 つまり、\(g\circ f\) は行列 \(BA\) を左から掛けるという決まりであらわされる一次写像であることがわかりました。

まとめ

数ベクトルの空間 \(V\) から数ベクトルの空間 \(W\) への写像 \(f\) が、ベクトルの和を作る操作やスカラー倍する操作を \(V\) でしてから写像 \(f\) を行っても、写像 \(f\) を行ってから \(W\) でベクトルの和を作る操作やスカラー倍する操作をしても、結局同じになるとき写像 \(f\) を一次写像といいます。

自分自身への一次写像は特に一次変換と呼ばれます。

数ベクトル空間の一次写像は「数ベクトルにある行列を左から掛ける」という決まりであらわされるものしかありません。

数ベクトルの空間 \(V\) から数ベクトルの空間 \(W\) への一次写像 \(f,g\) に対して、 \(f\)\(g\) の和と呼ばれる一次写像 \(f+g\) を作ることができ、\(f+g\) は 「\(f\) の行列と \(g\) の 行列の和を数ベクトルに左から掛ける」という決まりであらわされます。

数ベクトルの空間 \(V\) から数ベクトルの空間 \(W\) への一次写像 \(f\) と数 \(r\) にたいして、 \(f\) のスカラー倍と呼ばれる 一次写像 \(rf\) を作ることができ、\(rf\) は 「\(f\) の行列の \(r\) 倍を数ベクトルに左から掛ける」という決まりであらわされます。

数ベクトルの空間 \(V\) から数ベクトルの空間 \(W\) への一次写像 \(f\) と数ベクトルの空間 \(W\) から数ベクトルの空間 \(U\) への一次写像 \(g\) に対して、\(f\)\(g\) の合成と呼ばれる 一次写像 \(g \circ f\) を作ることができ、\(g \circ f\) は 「\(g\) の行列と \(f\) の 行列の積を数ベクトルに左から掛ける」という決まりであらわされます。

行列とその演算(5) 行列の基本変形