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計量線形空間の線形写像

2023-05-20

内積が導入されている線形空間(計量線形空間)が2つあるとします。そして、片方の空間からもう一方の空間への線形写像があるとします。この線形写像が、それぞれの空間の内積に関して良い性質を持つならば、それは計量線形空間の間の線形写像として重要であると考えられるでしょう。

これまでと同様に、以下 \(\mathbb{K}\) という記号で、実数の集合 \(\mathbb{R}\)、複素数の集合 \(\mathbb{C}\) のどちらかをあらわすことにします。

内積を保つ同型写像(計量同型写像)

定義

\(U,V\)\(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間とし、ここでは \(U\) の内積を \((\quad,\quad)_U\)\(V\) の内積を \((\quad,\quad)_V\) と書いて区別できるようにしておきます。 また、\(f:U \to V\) を線形写像とします。 そして \(f\) は以下の条件を満たすとします。

  1. \(f\) は同型写像である。
  2. \((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\) が成り立つ。

このとき、\(f\)計量同型写像であるといいます。

1.は \(f\) によって \(U\) のベクトルと \(V\) のベクトルは余ることなく \(1:1\) に対応し、和やスカラー倍は \(U\) で考えても \(V\) で考えても同じであることを意味します。
2.は \(f\)\(U\) のベクトルと \(V\) のベクトルを対応させるとき、\(U\) で内積を計算しても \(V\) で内積を計算しても同じ値になることを意味します。 この意味で、\(f\) は計量(内積)を保つということがあります。
つまり、\(f\) による(ベクトルの)名前の付替えのもとで、内積の計算まで含めて \(U\)\(V\) は全く同じものとみなせるということになります。

計量同型写像のことを詳しく言うとき、計量空間としての同型写像内積空間としての同型写像などと言います。

定義

2つの計量線形空間 \(U,V\) に対し、\(U\) から \(V\) への計量同型写像 \(f:U \to V\) が存在するとき、\(U\)\(V\)計量同型であるといいます。

計量同型写像となるための条件

ある線形写像が計量同型写像になっているのかどうかということを確認するには、その写像が上で学んだ計量同型写像の定義に現れる条件を満たしているかどうかを確認すればよいわけです。ですが、これ以外にもいくつかの方法があります。それは、次の命題で述べられているように、ある線形写像が計量同型写像となるための必要十分条件がいくつかあるからです。

命題

\(U,V\) を同じ次元の \(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間、 \(U\) の内積を \((\quad,\quad)_U\)\(V\) の内積を \((\quad,\quad)_V\) とし、\(f:U \to V\) を線形写像とします。 このとき、以下の4つの条件のいずれかが成り立てば、実は残りの条件もすべて成り立ちます。

  1. \(f\) は同型写像で、さらに \((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\) が成り立つ。(つまり \(f\) は計量同型写像である。)
  2. \((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\) が成り立つ。(つまり、同型写像であるのかどうかは脇に置いておくとして、とにかく内積を保つ。)
  3. \(\|f(\boldsymbol{x})\| = \|\boldsymbol{x}\|\) が成り立つ。(つまり \(f\) はベクトルの長さを変えない。)
  4. \(\|\boldsymbol{x}\|=1\) ならば \(\|f(\boldsymbol{x})\|=1\) が成り立つ。(つまり、\(f\) は長さが \(1\) のベクトルを 長さが \(1\) のベクトルにうつす。)

注意
この命題では、\(U\)\(V\) は同じ次元と仮定されていることに注意してください。

証明

まず念のための補足ですが、1.\(\Rightarrow\) 2.\(\Rightarrow\) 3.\(\Rightarrow\) 4.が成り立つのは明らかです。(この順に条件は弱められています。)

そこでここでは 4.\(\Rightarrow\) 3.\(\Rightarrow\) 2.\(\Rightarrow\) 1. を証明してみることにしましょう。

4.\(\Rightarrow\) 3. が成り立つことを証明してみます。つまり、

\(f\) が 長さが \(1\) のベクトルを 長さが \(1\) のベクトルにうつす」ならば「\(f\) はベクトルの長さを変えない」

ということを証明します。

まず \(U\) のベクトル \(\boldsymbol{x}\) があるとします。そしてそれから長さ \(1\) のベクトル \(\displaystyle \boldsymbol{e}=\frac{\boldsymbol{x}}{\|\boldsymbol{x}\|}\) を作ることにします。

するともちろん、\(\boldsymbol{e}\) を 「\(\boldsymbol{x}\) の長さ倍」すれば \(\boldsymbol{x}\) に戻ります。つまり \(\boldsymbol{x}=\|\boldsymbol{x}\|\boldsymbol{e}\) となります。

\(f\) は線形ですから

\[ \begin{align} f(\boldsymbol{x}) &=f(\|\boldsymbol{x}\|\boldsymbol{e})\\ &=\|\boldsymbol{x}\|f(\boldsymbol{e})\\ \end{align} \]

となり、\(\boldsymbol{e}\) は長さ \(1\) のベクトルですから

\[ \|f(\boldsymbol{e})\|=\|\boldsymbol{e}\|=1 \]

が成り立っています。ですから \(f(\boldsymbol{x})\) の長さについては、

\[ \begin{align} \|f(\boldsymbol{x})\| &=\|\boldsymbol{x}\|\|f(\boldsymbol{e})\| \\ &=\|\boldsymbol{x}\|\|\boldsymbol{e}\| \\ &=\|\boldsymbol{x}\| \end{align} \]

が成り立つことがわかります。

3.\(\Rightarrow\) 2. が成り立つことを証明してみます。つまり、

\(f\) はベクトルの長さを変えない」ならば「同型写像であるのかどうかは脇に置いておくとして、とにかく内積を保つ」

ということを証明してみます。

内積 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U,(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V\) と 長さ \(\|\boldsymbol{x}\|,\|\boldsymbol{y}\|,\|f(\boldsymbol{x})\|,\|f(\boldsymbol{y})\|\) を関連付けて議論するために、内積 \((\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y},\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})_U\) や 内積 \((f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}))_V\) のことを考えてみることにしましょう。

一般に

\[ \begin{align} \|\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}\|^2 &= (\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y},\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})_U \\ &= \|\boldsymbol{x}\|^2 + (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U + (\boldsymbol{y},\boldsymbol{x})_U + \|\boldsymbol{y}\|^2\\[15pt] \end{align} \]

\[ \begin{align} \|f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})\|^2 &= (f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}))_V\\ &=(f(\boldsymbol{x})+f(\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x})+f(\boldsymbol{y}))_V\\ &= \|f(\boldsymbol{x})\|^2 + (f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V + (f(\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x}))_V + \|f(\boldsymbol{y})\|^2 \end{align} \]

が成り立ちますが、いま \(f\) は長さを変えないので \(\|f(\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y})\|=\|\boldsymbol{x}+\boldsymbol{y}\|,\|f(\boldsymbol{x})\|=\|\boldsymbol{x}\|,\|f(\boldsymbol{y})\|=\|\boldsymbol{y}\|\) となり、上の2つの式より

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U + (\boldsymbol{y},\boldsymbol{x})_U =(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V + (f(\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x}))_V \tag{1} \]

が成り立っていることがわかります。 一般的に成り立っているこの式をもとに、\(f\) は内積を保つことをこれから確認してみたいと思います。そのために、内積の値を実部と虚部に分けて調べることにします。

まず、内積の値の実部が保たれることを確認してみることにします。\((1)\) 式はさらに

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U + \overline{(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})}_U =(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V + \overline{(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V} \]

と書き換えることができ、共役複素数の性質を思い出すと、これは \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\) の実数部分(の 2 倍)と \((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V\) の実数部分(の2倍)が等しいことを意味します。つまり

\[ \mathrm{Re}(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U =\mathrm{Re}(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V \]

が成り立ちます。これで \(f\) は内積の値の実部を保つことが確認できました。

次は、内積の値の虚部が保たれることを確認してみることにします。\((1)\) 式で \(\boldsymbol{x}\) の代わりに \(i\boldsymbol{x}\) を使うと、

\[ (i\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U + (\boldsymbol{y},i\boldsymbol{x})_U =(f(\boldsymbol{ix}),f(\boldsymbol{y}))_V + (f(\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{ix}))_V \]

となりますが、\(f\) は線形で内積は共役線形性をもつので

\[ i(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U + \bar{i}(\boldsymbol{y},\boldsymbol{x})_U =i(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V + \bar{i}(f(\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x}))_V \]

となり、さらに \(\bar{i} = -i\) なので

\[ i\left\{(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U -(\boldsymbol{y},\boldsymbol{x})_U\right\} =i\left\{(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V -(f(\boldsymbol{y}),f(\boldsymbol{x}))_V\right\} \]

となり、そしてさらに

\[ i\left\{(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U -\overline{(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})}_U\right\} =i\left\{(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V -\overline{(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))}_V\right\} \]

となります。共役複素数の性質を思い出すと、これは$ (,)_U$ の虚数部分(の 2 倍)と \((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V\) の虚数部分(の2倍)が等しいことを意味します。

\[ \mathrm{Im}(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U =\mathrm{Im}(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V \]

が成り立ちます。これで \(f\) は内積の値の虚部を保つことが確認できました。

以上で、\((\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\)\((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V\) は実数部分と虚数部分が等しいことがわかりました。ですから、

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U=(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V \]

が成り立つことになります。

2.\(\Rightarrow\) 1. が成り立つことを証明してみます。つまり、

「同型写像であるのかどうかは脇に置いておくとして、とにかく内積を保つ」ならば「実は内積を保つだけではなくさらに同型写像になっている」

ということを証明してみます。

\((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\) が成り立つという条件から、\(f\)\(1:1\) の写像であることを以下のように示すことができます。

\(\boldsymbol{x} \in f^{-1}(\boldsymbol{0})\) とします。つまり、\(f(\boldsymbol{x})=\boldsymbol{0}\) とします。

\(f\) は内積を保つので、

\[ \begin{align} (\boldsymbol{x},\boldsymbol{x})_U&=(f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{x}))_V\\ &=(\boldsymbol{0},\boldsymbol{0})_V=0 \end{align} \]

となります。内積の定義を思い出すと、内積の値が \(0\) となるようなベクトルは零ベクトル以外にはないので、 \((\boldsymbol{x},\boldsymbol{x})_U = 0\) となる \(U\) のベクトルは \(\boldsymbol{0}\) だけ、つまり \[\boldsymbol{x}=\boldsymbol{0}\] ということになり、

\[ f^{-1}(\boldsymbol{0})=\{\boldsymbol{0}\} \]

ということになります。ですから \(f\)\(1:1\) の写像です。

いま \(U\)\(V\) の次元は同じですから、\(f\)\(1:1\) であるなら $f(U)=V $ も満たすことになります。ですから \(f\) は同型写像です。そして \(f\)\((f(\boldsymbol{x}),f(\boldsymbol{y}))_V=(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y})_U\) という条件も満たしているのですから計量同型写像です。

(証明終わり)

数ベクトル空間との同型対応

正規直交基底を用いてベクトルを座標で扱うと、計量線形空間の内積は数ベクトル空間の自然内積と同じ見かけになるということを以前学びました。このことからも想像できるように、実は、どのような \(n\) 次元の計量線形空間も、内積として自然内積を考えることにしている \(n\) 次の数ベクトルの空間と計量同型になります。このことを次の命題で証明することにします。

命題

\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元の計量線形空間とし、\(\mathbb{K}^n\)\(n\) 次の数ベクトルの空間とします。 \(\mathbb{K}^n\) は自然内積により計量線形空間になりますが、\(V\)\(\mathbb{K}^n\) は計量同型になっています。

念の為の補足:自然内積とは… 数ベクトル空間 \(\mathbb{K}^n\) のベクトル \(\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right),\left(\begin{array}{c}y_1\\ \vdots\\ y_n\end{array}\right)\) に対して \(x_1\overline{y_1}+x_2\overline{y_2} + \cdots + x_n\overline{y_n}\) を対応させる内積です。

証明

\(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) の内積を \(\left(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\right)\) であらわすことにし、\(\lt \boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n \gt\)\(V\) の正規直交基底とします。

\(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) をこの正規直交基底を用いて \[ \begin{align} \boldsymbol{x}&=x_1\boldsymbol{u}_1 + \cdots + x_n\boldsymbol{u}_n \end{align} \] とあらわすことにし、 写像 \(f:V \to \mathbb{K}^n\)\[ f(\boldsymbol{x})=\left(\begin{array}{c}x_1\\ \vdots\\ x_n\end{array}\right) \] として定義します。\(f\) が線形写像として同型写像であることは明らかで、内積を保つことも明らかです。
一応補足しておくと… \(V\) のベクトル \(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\) をこの正規直交基底を用いて

\[ \begin{align} \boldsymbol{x}&=x_1\boldsymbol{u}_1 + \cdots + x_n\boldsymbol{u}_n \\ \boldsymbol{y}&=y_1\boldsymbol{u}_1 + \cdots + y_n\boldsymbol{u}_n \end{align} \]

とあらわすことにすると

\[ \begin{align} \left(\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}\right) &=\left(x_1\boldsymbol{u}_1 + \cdots + x_n\boldsymbol{u}_n,y_1\boldsymbol{u}_1 + \cdots + y_n\boldsymbol{u}_n\right)\\[6pt] &= \text{すべての}\,i,j \,\text{についての}\, x_i \overline{{y}_j}(\boldsymbol{u}_i, \boldsymbol{u}_j) \,\text{たちの和}\\[6pt] &\qquad i\,\text{と}\,j\,\text{が異なるとき} \,(\boldsymbol{u}_i,\boldsymbol{u}_j)=0,\\[6pt] &\qquad i\,\text{と}\,j\,\text{が等しいとき} \,(\boldsymbol{u}_i, \boldsymbol{u}_j)=1 \,\text{なので}\\[6pt] &=x_1\overline{y_1}+x_2\overline{y_2}+\cdots+x_n\overline{y_n} \end{align} \]

となっています。ですから、\(V\) における内積の値と \(\mathbb{K}^n\) における自然内積の値は \(f\) によって保たれます。

よって、\(V\)\(\mathbb{K}^n\) は計量同型です。

(証明終わり)

補足
この命題から、次元の等しい計量線形空間はどれも計量同型であることがわかります。

計量同型写像の正規直交基底に関する表現行列

線形写像は線形空間の基底を決めるごとに行列で取り扱うことができるのでした。 つまり、\(U,V\) を線形空間、\(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt,\lt\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) をそれぞれ \(U,V\) の基底、\(f:U\to V\) を計量同型写像とするとき、

\[ (f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),\ldots, f(\boldsymbol{u}_n))=(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m)A \]

となる \(m \times n\) 行列 \(A\) が定まり、これを \(f\) の基底 \(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt,\lt\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_m\gt\) に関する表現行列と呼ぶのでした。

それではここで、計量同型写像の正規直交基底に関する表現行列はどのような特徴を持つのか調べてみることにしましょう。

\(U,V\) を計量線形空間、\((\quad,\quad)_U,(\quad,\quad)_V\) をそれぞれ \(U,V\) の内積、\(\lt\boldsymbol{u}_1,\boldsymbol{u}_2,\ldots,\boldsymbol{u}_n\gt,\lt\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_n\gt\) をそれぞれ \(U,V\) の正規直交基底とします。また、\(f:U\to V\) を計量同型写像とします。

これらの正規直交基底 に関する \(f\) の行列を

\[A=\left( \begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ n1 } & a_{ n2 } & \ldots & a_{ nn } \end{array} \right) \]

とするとこれは

\[ (f(\boldsymbol{u}_1),f(\boldsymbol{u}_2),\ldots, f(\boldsymbol{u}_n))=(\boldsymbol{v}_1,\boldsymbol{v}_2,\ldots,\boldsymbol{v}_n) \left( \begin{array}{cccc} a_{ 11 } & a_{ 12 } & \ldots & a_{ 1n } \\ a_{ 21 } & a_{ 22 } & \ldots & a_{ 2n } \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{ n1 } & a_{ n2 } & \ldots & a_{ nn } \end{array} \right) \]

となる行列です。

\(f\) は内積を保つので

\[ (f(\boldsymbol{u}_i),f(\boldsymbol{u}_j))_V =\begin{cases}1 & (i=j)\\ 0 & (i \neq j) \end{cases} \]

が成り立ちます。これより、

\[ a_{1i}\overline{a_{1j}}+a_{2i}\overline{a_{2j}}+\cdots+a_{ni}\overline{a_{nj}}=\begin{cases} 1 & (i=j)\\ 0 & (i \neq j)\\ \end{cases} \]

を満たしていることがわかり、これは

\[ {}^t \! A\overline{A}=E_n \]

と書くことができます。

詳しくいうと… この計算は以前、基底変換の説明でおこなったものと全く同じです。

つまり、\(A\) はユニタリー行列です。

以上を次の命題にまとめておくことにしましょう。

命題

計量同型写像の正規直交基底に関する表現行列はユニタリー行列になります。

ところで、\(U\)\(V\) が同じ空間の場合、つまり自分自身への計量同型写像を考えると、計量線形変換で同型写像となっているものを考えることになります。

そのようなものには次の定義で述べられる名前がつけられています。

定義

\(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間 \(V\) から \(V\) 自身への計量同型写像をユニタリー変換といいます。また、特に \(\mathbb{R}\) 上の計量線形空間 \(V\) から \(V\) 自身への計量同型写像を直交変換と呼ぶことがあります。

命題

ユニタリー変換の正規直交基底に関する表現行列はユニタリー行列になります。

証明

ユニタリー変換は自分自身への計量同型写像ですから、先の命題よりこの主張は成り立ちます。

(証明終わり)

「実数 \(\mathbb{R}\) 上の2次元の数ベクトル空間に自然内積を導入してできる計量線形空間」のユニタリー変換について考えてみることにします。 つまり、線形空間 \(V\) として \(\mathbb{R}^2\) を考えることにし、内積 \((\quad,\quad)\) としては、数ベクトル \(\boldsymbol{x} = \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right),\,\boldsymbol{y} = \left(\begin{array}{c}y_1\\y_2\end{array}\right)\) に対して、

\[ (\boldsymbol{x},\boldsymbol{y}) = x_1y_1+x_2y_2 \]

となるものを考えることにします。これは、\(V\) の正規直交基底として、自然基底

\[ \lt\boldsymbol{e}_1=\left(\begin{array}{c}1\\0\end{array}\right),\,\boldsymbol{e}_2=\left(\begin{array}{c}0\\1\end{array}\right)\gt \]

が使われていることになります。

それでは、前置きはここまでにして、\(V\) のユニタリー変換はどんなものになるのか調べてみることにしましょう。

\(V\) のユニタリー変換の自然基底 \(\lt\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2\gt\) に関する表現行列を

\[ T=\left(\begin{array}{cc} x & y \\ z & w \end{array}\right) \]

とおくことにします。

前の命題より、\(T\) はユニタリー行列(いまは実数上の線形空間の話なので特に直交行列)です。つまり、\({}^t \! T T =E_2\) が成り立ちます。これを行列成分で書くと

\[ \left(\begin{array}{cc} x & z\\ y & w \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} x & y\\ z & w \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} 1 & 0\\ 0 & 1 \end{array}\right) \]

となり、さらに、

\[ \left(\begin{array}{cc} x^2+z^2 & xy+wz\\ xy+wz & y^2+w^2 \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} 1 & 0\\ 0 & 1 \end{array}\right) \]

となります。 つまり、

\[ \begin{align} & x^2+z^2 = 1 \tag{2}\\ & xy+wz = 0 \tag{3}\\ & y^2+w^2 = 1 \tag{4} \end{align} \]

が成り立ちます。

\((2)\) 式より \(x,z\) は、ある \(\theta\) があって、

\[ x= \cos \theta,\ y= \sin \theta \tag{2'} \]

とあらわすことができるということになります。同様に、\((4)\) 式より \(y,w\) は、ある \(\phi\) があって、

\[ y= \cos \phi,\ w= \sin \phi \tag{4'} \]

とあらわすことができるということになります。 これらと \((3)\) より、

\[ \cos\theta\cos\phi + \sin\theta\sin\phi=0 \]

が得られますが、三角関数の加法定理を用いるとこれはさらに、

\[ \cos(\theta-\phi)=0 \]

と書き換えることができます。これより

\[ \theta - \phi= \frac{\pi}{2} \, \text{または} \, \theta - \phi= -\frac{\pi}{2} \]

であることがわかります。つまり、

\[ \phi=\theta + \frac{\pi}{2} \, \text{または} \, \phi= \theta -\frac{\pi}{2} \tag{5} \]

となっているということです。この \((5)\) 式を使うと \((4)\) 式より、

\[ \begin{align} &y=\cos\left(\theta + \frac{\pi}{2}\right) = -\sin\theta,\\ &w=\sin\left(\theta + \frac{\pi}{2}\right)=\cos\theta\\ \text{または}\\ &y=\cos\left(\theta - \frac{\pi}{2}\right) = \sin\theta,\\ &w=\sin\left(\theta - \frac{\pi}{2}\right)=-\cos\theta\\ \end{align}\tag{6} \]

となっていることがわかります。以上で \(x,y,w,z\) の可能性をすべて求めることができました。つまり、\((2')\) 式と \((6)\) 式より \(T\) は、ある \(\theta\) を用いて

\[ \begin{align} &T=\left(\begin{array}{cc} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{array}\right)\\[6pt] &\qquad \text{または}\\[6pt] &T=\left(\begin{array}{cc} \cos\theta & \sin\theta \\ \sin\theta & -\cos\theta \end{array}\right)\\ \end{align} \]

とあらわされるものであるということがわかりました。これが自然基底に関する表現行列ですから、実数上2次元の数ベクトル空間 \(\mathbb{R}^2\) に自然内積を導入してできる計量線形空間のユニタリー変換は

\[ \begin{align} &\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換}\\[6pt] &\qquad\text{または}\\[6pt] &\left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & \sin\theta \\ \sin\theta & -\cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換}\\ \end{align} \]

ということになります。

補足1
「数ベクトル空間 \(\mathbb{R}^2\) に自然内積を導入してできる計量線形空間」を「直交する座標軸が導入されている平面の幾何ベクトルの空間」と同一視してみることにすると、ここで求めたユニタリー変換は次のような図形的意味を持っていることがわかります。

まず、

\[ \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換} \]

は、原点を中心に半時計回りに \(\theta\) 回転する変換です。

次に

\[ \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & \sin\theta \\ \sin\theta & -\cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換} \]

ですが、

\[ \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{array}\right) = \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & \sin\theta \\ \sin\theta & -\cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right) \]

が成り立つことに注意します。すると、いま注目している方の変換は、

\[ \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} 1 & 0 \\ 0 & -1 \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換} \tag{7} \]

を行ってからさらに原点を中心に半時計回りに \(\theta\) 回転する変換を行っていることになります。

ところで、\((7)\) 式の変換ですが、少し考えるとこれは、\(x_1\) 軸 に関して折返しを行う変換(\(x_1\) 軸 に関する鏡映)を行っていることが理解できます。ですから、いま注目している方の変換は、\(x_1\) 軸 に関して折返しを行う変換を行ってから原点を中心に半時計回りに \(\theta\) 回転する変換を行っていることになります。

補足2
この例で求められたユニタリー変換では、

\[ \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & -\sin\theta \\ \sin\theta & \cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換} \]

の行列式の値は \(1\) で、

\[ \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right) \,\text{に} \, \left(\begin{array}{cc} \cos\theta & \sin\theta \\ \sin\theta & -\cos\theta \end{array}\right) \left(\begin{array}{c}x_1\\x_2\end{array}\right)\,\text{を対応させる変換} \]

の行列式の値は \(-1\) あることが計算ですぐにわかります。実は、この例で考えた2次元の数ベクトル空間に限らず、実数上の一般の計量線形空間において、ユニタリー変換の行列式の値は \(1\) または \(-1\) のいずれかになります。さらに付け加えておくと、複素数上の一般の計量線形空間では、ユニタリー変換の行列式の値は絶対値が \(1\) の複素数になります。

数ベクトル空間のユニタリー変換

上の例では、実数上の2次元の数ベクトル空間に自然内積を導入してできる計量線形空間のユニタリー変換をすべて見つけてみました。その説明の中で、そのユニタリー変換の自然基底に関する表現行列を

\[ T=\left(\begin{array}{cc} x & y \\ z & w \end{array}\right) \]

とすると、\(T\)\({}^t \! T T =E_2\) を満たしているはずなので、

\[ \begin{align} & x^2+z^2 = 1\\ & xy+wz = 0\\ & y^2+w^2 = 1 \end{align} \]

が成り立つということがわかりました。ここで、\(\boldsymbol{t}_1 = \left(\begin{array}{c} x \\ z \end{array}\right),\,\boldsymbol{t}_2 = \left(\begin{array}{c} y \\ w \end{array}\right)\) とおき、\(T\) を列ベクトル \(\boldsymbol{t}_1\)\(\boldsymbol{t}_ 2\) を並べてできる行列と考えると、つまり

\[ T = (\boldsymbol{t}_1, \boldsymbol{t}_2) \]

と考えると、先の式は、\(T\) の各列ベクトルの長さは \(1\) で互いに直交しているということをあらわしていることになります。

ここでは、上の例のような実数上の2次元の場合に限らず、\(\mathbb{K}\)\(\mathbb{C}\) または \(\mathbb{R}\) のいずれかとし、次元も一般に \(n\) として、\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元数ベクトル空間に自然内積を導入してできる計量線形空間のユニタリー変換の特徴について考えることにします。

先の例の前に述べられている命題を思い出すと、数ベクトル空間に限らず一般の計量線形空間において、ユニタリー変換の正規直交基底に関する表現行列はユニタリー行列になります。 ですから、もちろん数ベクトル空間の場合では計量線形空間のユニタリー変換の自然基底に関する表現行列はユニタリー行列です。つまり、

\[ f:\mathbb{K}^n \to \mathbb{K}^n \]

をユニタリー変換とし、\(f\) の自然基底 \(\lt \boldsymbol{e}_1,\ldots,\boldsymbol{e}_n\gt\) に関する表現行列を \(T\) とすると、\(T\)

\[ {}^t \! T\overline{T}=E_n \tag{8} \]

を満たしています。ここで、\(T\) を列ベクトルに区分けして、

\[ T=(\boldsymbol{t}_1,\ldots, \boldsymbol{t}_n) \]

とあらわしておくことにすると、\((8)\) 式は、

\[ \left(\begin{array}{c} {}^t \!\boldsymbol{t}_1\\ \vdots\\ {}^t \!\boldsymbol{t}_n \end{array}\right) (\overline{\boldsymbol{t}_1},\ldots, \overline{\boldsymbol{t}_n}) =E_n \tag{9} \]

と書くことができます。ところで、\({}^t \! \boldsymbol{t}_i\) は行ベクトル(\(1\times n\) 行列)、\(\overline{\boldsymbol{t}_ j}\) は列ベクトル(\(n\times 1\) 行列)であり、これらの行列としての積 \({}^t \!\boldsymbol{t}_i \overline{\boldsymbol{t}_ j}\) は、自然内積の計算の仕方を思い出すと、

\[ {}^t \!\boldsymbol{t}_i \overline{\boldsymbol{t}_ j} = (\boldsymbol{t}_i, \boldsymbol{t}_j) \]

となることがわかります。

ですから、\((9)\) 式の左辺をさらに計算して、

\[ \left( \begin{array}{ccc} (\boldsymbol{t}_1,\boldsymbol{t}_1) & \cdots &(\boldsymbol{t}_1,\boldsymbol{t}_n)\\ \vdots & & \vdots\\ (\boldsymbol{t}_n,\boldsymbol{t}_1) & \cdots &(\boldsymbol{t}_n,\boldsymbol{t}_n)\\ \end{array} \right)=E_n \]

と書き換えることができます。これは、

\[ (\boldsymbol{t}_i,\boldsymbol{t}_j) =\begin{cases}1 & (i=j)\\ 0 & (i \neq j) \end{cases} \]

であることをあらわしているので、\(T\) の各列ベクトル \(\boldsymbol{t}_1,\ldots,\boldsymbol{t}_n\) はどれも長さが \(1\) で、お互いに直交していることがわかります。言い換えると、\(\lt\boldsymbol{t}_1,\ldots,\boldsymbol{t}_n\gt\)\(\mathbb{K}^n\) の正規直交基底となることを意味しています。

以上調べたことを、次の命題として述べておきます。

命題

\(n\) 次元数ベクトル空間 \(\mathbb{K}^n\) に自然内積を導入した計量線形空間を考えます。そして、\(f:\mathbb{K}^n \to \mathbb{K}^n\)\(\mathbb{K}^n\) のユニタリー変換とし、\(f\) の自然基底に関する表現行列を \(T\) とします。

  1. \(T\) はユニタリー行列で、 \(f\)\(\mathbb{K}^n\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、

    \[ f(\boldsymbol{x}) = T\boldsymbol{x} \]

    とあらわされます。
  2. \(T\) を列ベクトルに区分けして、

    \[ T=(\boldsymbol{t}_1,\ldots, \boldsymbol{t}_n) \]

    とあらわしておくと、\(T\) の各列ベクトル \(\boldsymbol{t}_1,\ldots,\boldsymbol{t}_n\) はどれも長さが \(1\) でお互いに直交し、\(\lt\boldsymbol{t}_1,\ldots,\boldsymbol{t}_n\gt\) は正規直交基底となります。

補足
数ベクトル空間の線形写像では、線形写像をあらわす行列の第 \(i\) 列は自然基底を構成しているベクトル \(\boldsymbol{e}_i\) の“行き先”です。ですから、この命題の 1. を認めれば、\(\boldsymbol{t}_i\)\(f(\boldsymbol{e}_i)\) に等しいことがわかり、\(f\) が内積を保つことを考えに入れれば、2. が成り立つことがわかります。

まとめ

\(U,V\)\(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間とし、\(f:U \to V\) を線形写像とします。\(f\) が同型写像で、さらに内積を保つとき、\(f\) は計量同型写像であるといいます。このとき、\(f\) による(ベクトルの)名前の付替えのもとで、内積の計算まで含めて \(U\)\(V\) は全く同じものとみなせるということになります。

2つの計量線形空間 \(U,V\) に対し、\(U\) から \(V\) への計量同型写像 \(f:U \to V\) が存在するとき、\(U\)\(V\) は計量同型であるといいます。

\(U,V\) を同じ次元の \(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間とし、\(f:U \to V\) を線形写像とします。以下の4つの条件のいずれかが成り立てば、実は残りの条件もすべて成り立ちます。

  1. \(f\) は計量同型写像である。
  2. 同型写像であるのかどうかは脇に置いておくとして、とにかく内積を保つ。
  3. \(f\) はベクトルの長さを変えない。
  4. \(f\) は長さが \(1\) のベクトルを 長さが \(1\) のベクトルにうつす。

\(V\)\(\mathbb{K}\) 上の \(n\) 次元の計量線形空間とし、\(\mathbb{K}^n\)\(n\) 次の数ベクトルの空間とします。 \(\mathbb{K}^n\) は自然内積により計量線形空間になりますが、\(V\)\(\mathbb{K}^n\) は計量同型になっています。

計量同型写像の正規直交基底に関する表現行列はユニタリー行列になります。

\(\mathbb{K}\) 上の計量線形空間 \(V\) から \(V\) 自身への計量同型写像をユニタリー変換といいます。また、特に \(\mathbb{R}\) 上の計量線形空間 \(V\) から \(V\) 自身への計量同型写像を直交変換と呼ぶことがあります。

ユニタリー変換の正規直交基底に関する表現行列はユニタリー行列になります。

\(n\) 次元数ベクトル空間 \(\mathbb{K}^n\) に自然内積を導入した計量線形空間を考え、\(f:\mathbb{K}^n \to \mathbb{K}^n\)\(\mathbb{K}^n\) のユニタリー変換とし、\(f\) の自然基底に関する表現行列を \(T\) とします。このとき、次のことが成り立ちます。

  1. \(T\) はユニタリー行列で、 \(f\)\(\mathbb{K}^n\) の数ベクトル \(\boldsymbol{x}\) に対して、

    \[ f(\boldsymbol{x}) = T\boldsymbol{x} \]

    とあらわされます。
  2. \(T\) を列ベクトルに区分けして、

    \[ T=(\boldsymbol{t}_1,\ldots, \boldsymbol{t}_n) \]

    とあらわしておくと、\(T\) の各列ベクトル \(\boldsymbol{t}_1,\ldots,\boldsymbol{t}_n\) はどれも長さが \(1\) でお互いに直交し、\(\lt\boldsymbol{t}_1,\ldots,\boldsymbol{t}_n\gt\) は正規直交基底となります。

計量線形空間の基底とその変換 簡単な表現行列をもつ線形変換の例